酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「松坂世代初の名球会」に希望が。
藤川球児、39歳のクローザー転向。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/20 12:00
剛球投手が駆け引きを覚えて息長く活躍するパターンはある。しかし藤川球児は今も昔も火の玉ストレートで勝負する。
クローザーとして今も頼れる球児。
寄る年波、とは古臭い言葉だが、松坂世代にも年齢の波がひたひたと押し寄せている。
しかしそんな中で、ただひとり、チームを背負って立っている選手がいる。阪神の藤川球児だ。
藤川は開幕当初はセットアッパーだったが、クローザーのドリスが成績不振で7月23日の登板を最後に登録抹消されるとクローザーに指名された。藤川は昨年も2セーブを挙げているが、これは応急処置的な登板だった。しかし今年は明確な配置転換だ。
7月26日にクローザーとして初めてマウンドに上がると、6試合連続でセーブ。8試合で7セーブ。「水を得た魚」という言葉が浮かぶほど元気だ。
藤川はクローザーとしての8回の登板で2失点している。防御率で言えば2.25で、クローザーとして素晴らしい成績というわけではないが、感心するのは失点しても動じないことだ。
点が入ると捕手が気づかわしげな表情になるが、藤川は「かめへん、かめへん」という感じでボールを受け取り、後続をあっさりと料理する。
クローザーという役割は「リードを保って試合を完了する」ことであり、個人成績は関係ないと割り切っている印象だ。
「JFK」の残り2人はとっくに引退。
藤川がJFKの一員として大活躍したのは、もう15年も前のことだ。JFKの残る2人、ジェフ・ウィリアムスも、久保田智之もとっくに引退している。
しかし39歳になる藤川は、昔と変わらない溌剌としたマウンドを見せているのだ。
藤川の今年の雄姿を見るにつけ、4年前を思い出す。2015年5月22日、藤川球児はテキサス・レンジャーズをリリースされ、その去就が注目された。大方が阪神への復帰を予想する中、藤川は四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスへの入団を発表した。
6月8日、藤川は、高知市内のホテルで入団記者会見を開いた。筆者も取材に行ったが、感じたのは強烈なプライドだった。
高知で生まれ育った藤川は「子供たちに高知の夏を体験させたかった」と語った。そして報酬は受け取らず、売り上げから児童養護施設に寄付をすると語った。また藤川はMLB球団からオファーがあったとも語った。「力が落ちて帰ってきたわけではない」と言いたかったようだ。