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愛すべき貴公子トーレスの名ゴール。
イニエスタ、ビジャとラストダンス。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byGetty Images
posted2019/08/21 11:30
現役引退を決めたトーレスの最終試合はイニエスタとビジャがいる神戸との一戦だ。
代名詞となった右足ボレー。
リバプール時代
2009年4月11日/ブラックバーン戦
リバプールのクラブ公式YouTubeが配信した「トーレスのトップ10ゴール」動画の中で、栄えある1位に選ばれているシュートである。最終ラインやや右から来たロングボールを胸トラップで受けると、マーカー2人もまったく寄せ付けず右足ボレー。ファーサイドのゴールネットを撃ち抜いた。
シーン描写だけではなかなか伝わらないのが惜しいが、最終ライン裏に抜け出すトップスピード、胸トラップからのターン、そしてシュートに持ち込むスピーディーさは躍動感にあふれている。またシュートを放つまでのモーションで、ゴールに視線を送った様子が見当たらないのが末恐ろしい。
そんな才能を毎回のように見せつけ、アンフィールドの英雄となったのだ。
ちなみにこの前のシーズン、トーレスはリーグ戦24ゴール、CLで6ゴール。文字通りスーパーエースだった。
チェルシーではクラブ初のCL制覇に貢献。
チェルシー時代
2012年4月24日/CL準決勝バルセロナ戦
トーレスファンにとってみれば、チェルシーは暗黒時代だろう。リバプールから巨額の移籍金で加入したものの、在籍4シーズンでいずれもリーグ戦2ケタ得点を挙げることはできず、イージーに見える決定機を外して大バッシングを受けた時期もあったからだ。
ただし、クラブにとって初となるCL制覇は、トーレスなしでは実現しなかったかもしれない。バルセロナとの準決勝、ホームでの1stレグを1−0で勝利していたチェルシーだったが、アウェーでの2ndレグでブスケッツに先制ゴールを浴び、主将テリーが退場、イニエスタに合計スコアを逆転されるゴールを食らう。
まさしく逆境のチェルシーだったが、前半終了間際にラミレスのゴールで貴重なアウェーゴールを奪った。もう1点が欲しいバルサのポゼッション地獄を必死で耐えきると後半アディショナルタイム、途中出場のトーレスが、カウンターでゴールを難なく陥れたのだ。
約10万人が詰めかけた敵地カンプノウが完璧に諦め、チェルシーがビッグイヤー獲得へ大きく踏み出した瞬間だった。ある意味“空気を読まない”一撃を決められるのも、トーレスらしさだったのだと思う。