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<eスポーツの世界へようこそ>
モンストグランプリ、戦いの果て。 

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河崎三行

河崎三行Sangyo Kawasaki

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photograph byTadashi Shirasawa

posted2019/08/08 11:00

<eスポーツの世界へようこそ>モンストグランプリ、戦いの果て。<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

2カ月半に及ぶ戦いの末、モンストグランプリ2019 アジアチャンピオンシップは、中部予選Bブロック覇者の「どんどんススムンガ」が優勝。

解説者も狙いを掴めなかった奇策。

 CatsはTR1位になったことで、BRでの第1シード権だけでなく、ファイナルまでの全試合でピック(各ステージの対戦前、自軍キャラを敵チームと交互に選んでいく作業)の先攻、後攻を選べる権利も手にしていた。ステージのギミックや登場する敵モンスターの特徴に応じ、より適した能力を持つ4体のキャラを組み合わせることが生命線となるモンスターストライクスタジアム(大会で使用されたモンストのチーム対戦用アプリ)では、先攻ピックの側が勝負を圧倒的に有利に進められるとされる。

 幕張のBRで初めてどんどんススムンガが後攻に回った、第1試合のピック時である。4体目に彼らが〈こゆき〉を選択すると、会場から一斉にどよめきが起こった。そのどよめきの意味を後日、タイガー桜井が教えてくれた。

「獣人姫ステージのボス〈ハクビ〉の弱点ポイントは体の内側にあるため、貫通タイプのキャラでなければ致命的なダメージを与えられません。しかし、こゆきは敵への火力(=攻撃力)こそ大きいものの反射タイプで、ハクビの体内に入って行けないんです」

 そもそも獣人姫ステージでハクビを攻略するための絶対的なキャラは〈ソロモン〉とされていて、先攻側は最初のピックでソロモンを選ぶのがセオリーだ。もちろんCatsも、セオリーに従った。

 となると後攻側が取れる策としては、味方キャラにぶつかりながら敵モンスターをヒットしてより大きなダメージを与える『友情コンボ』の能力が高いモンスターを、できるだけ多くピックするしかない。それでも、勝ち目を五分五分にできるかどうかだ。

「けれどもこゆきは、友情コンボの力も低いんです。何から何までステージの特徴にそぐわないキャラで、僕は試合前、彼らがいったいどうしようとしているのかまるでわかりませんでした」(タイガー桜井)

「狙いはこれか? どんどんススムンガ!」

 第1ステージの火ぶたが切って落とされた。Catsは素早い打ち出しから、わずか1手で最初の登場モンスター3体を一掃する。

 一方、どんどんススムンガは、注目のこゆきに先陣を切らせた。操るのは1番手のぴよまるだ。しかし彼は、なかなか打ち出さない。じっくり狙いを定めたかと思うと、放ったこゆきは上の壁に反射して最上段のモンスターとの間のわずかな隙間に挟まり、そのモンスター1体を倒しただけで画面上部にとどまってしまった。続く2番手のショットで残りの2体を片付けたが、1手余分に使っている間、Catsはすでに第2ステージに進んでしまっていた。

 当然、第2ステージでもどんどんススムンガはCatsに先行を許し、5秒遅れで第3ステージにたどり着く。

 画面中央には、3体の中ボスが群れをなしている。どんどんススムンガの手番は一周し、ぴよまるのターンだ。こゆきは画面の上端、初手後の場所からまったく動いていない。ぴよまるは、またも慎重に狙いをつける。その間にもCatsが先んじて中ボスたちに攻撃を仕掛けているが、気に留める様子はない。

 ぴよまるが、自分の呼吸でこゆきを左の壁へと打ち下ろす。するとこゆきは反射して2体の中ボスの間に入り込み、一撃で計3体をまとめて倒してしまったのである。形勢は一気に逆転し、どんどんススムンガがこの試合で初めてリードを奪った。鮮やかな立ち回りに、実況アナウンサーが思わず声を上げる。

「狙いはこれか? どんどんススムンガ!」

 彼の憶測は半分当たり、半分外れていた。こゆきの真価が本当に発揮される場面は、まだ訪れていない。

【次ページ】 誰も思いつかなかった起死回生の一撃。

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