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菊池雄星が明かす“花巻東高校で甲子園優勝にこだわった理由”「監督を男にしたい」「岩手の選手だけで日本一に」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byAFLO
posted2021/08/13 11:00
花巻東高校監督の佐々木洋監督にグータッチする菊池雄星(当時高3)
ストレートのスピードが落ちても、チェンジアップを使うことでカバーできる。どんなに調子が悪いときでも試合を作ることのほうが勝つことよりも大事だというのが、メジャーの先発ピッチャーに求められる価値観だ。だから菊池はこう考える。
「最初は負けたら落ち込みましたし、打たれたらやべえなと凹みました。でも、(佐々木)監督の言っていた想定内に、トータルで収めるためにはどうすればいいのかを考えたら、今は、いずれ、絶対に必要になるステップを踏んでいるんだと考えるようにしてみたんです。僕の中では当然、毎年、毎試合、絶対に勝つつもりでやっています。でも(マリナーズのジェリー・ディポト)GMからは、3年後にエースとして投げてくれ、と言われていますし、今後の成長を期待されていると思っていますから、打たれても今だけを見るのではなく、3年後に向けて必要な勉強だと切り替えることが大事なんだと考えられるようになりました」
初めて花巻東の練習を見学した日
岩手から、日本一。花巻東から、メジャー。
そんな見果てぬ夢が子どもの頃の菊池の中に育まれたのは、父の雄治さんと佐々木監督がいてくれたからだった。15歳までは父が、15歳からは監督が、菊池を天井のない高みへとたどり着かせた。菊池はこうも言っていた。
「中学2年のとき、初めて花巻東の練習を見に行ったんですけど、それまでに見たほかのチームとは明らかに雰囲気が違っていたんです。シートノック、挨拶、すべてが違って見えた。そして、そこに(佐々木)監督がいました。
花巻東の選手たちを見ていたら、みんなが『監督を男にするんだ』『監督を日本一の監督にしたい』と言っている。そういうチームって、あんまりないじゃないですか。甲子園へ出たいとか、プロへ行きたいとか、そういうことを口にする選手はいても、チームのみんなが『監督を胴上げしたい』って……実際、僕も入学してからは、本当に監督を男にしたいと思いましたし、今でも監督の期待に応えたいと思っています。しかも監督は、岩手県の選手だけで甲子園は勝てる、というところにこだわっていました。僕も中学のとき、(盛岡東)シニアで全国大会に行って周りの選手を見たとき、岩手の選手だけで日本一になれると感じていましたから、監督のその考えにはものすごく惹かれました」
監督に呼び出され「いよいよオレとお前の最後の夏だな」
菊池は花巻東に入学していきなり145kmのストレートを投げて、周囲の度肝を抜いた。その年、花巻東は夏の甲子園に出場し、菊池も1年生ながら甲子園のマウンドを経験している。