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クビ寸前から一転、楽天の救世主。
石橋良太が育成降格から大逆襲!
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKyodo News
posted2019/07/18 07:00
明徳義塾高校、拓殖大、Hondaを経て楽天に入団した石橋良太(右)。平石洋介監督も彼の反骨心を買っている。
久保が話した「クビ」の恐怖。
久保は右手の血行不良による降格だった。したがって、怪我が完治すれば支配下契約の可能性は十分にあったし、一軍復帰の現実味も高かった。その久保にしても、この時37歳のベテランだ。故障が「=引退」に直結する年齢でもあるし、むしろ石橋より不利な立場にいたとも考えられる。
楽天に入団した時から「今が一番、野球が楽しい」と発している久保は、昨年のオフ、自らの想いをストレートにぶつけていた。
「正直、この時期になると不安ですよ。知らない番号から電話がかかってくると、『クビかな?』って怖くなります。でもまあ、自分はしぶといですからね。ゴキブリ並みの生命力がありますから(笑)。
野球を楽しんで、しがみついて。そういう姿を後輩たちに少しでも見てもらいたいなって思いますね」
ベテランになってもなお、泥臭く現役にこだわる久保の姿を見ていたのが石橋だった。
苦悩が決意に変わり、覚悟が芽生える。
「久保さんは、いつも『楽しんでる』って言っているし、実際にグラウンドでも楽しそうに野球をやっていて。そういう姿を見たり、お話をさせていただいて、自分も『思い切ってやろう。悔いのない1年にしよう』って」
シュートで這い上がり、生きていく。
ストロングポイントを貫く――石橋が導き出した答えだ。
右打者ならばシュート、左打者ならカットボール。「崖っぷち男」はプロで勝負を賭けるべく、これを鉄則とした。
昨秋のキャンプ。石橋の気概は、首脳陣にも伝わっていた。一軍のブルペンを担当する森山良二が、その時の心証を手繰り寄せる。
「大卒、社会人出の即戦力で入ってきたのに、育成に落ちた苦労人だからね。『シュートで這い上がろう、生きていこう』って覚悟は、僕だけじゃなく平石監督にもすごく伝わっていたし、実際に我々にも『あのシュートは使える』って評価があったから」