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自衛隊に究極のストイックランナー。
本業は装甲戦闘車の指揮と運転。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/07/23 08:05
陸上部の練習でも使うジープの前で、穏やかな笑みを浮かべる宮原徹。自衛隊最強ランナーだ。
海外レースでも早くから活躍。
その力量に対する信頼は厚く、滝ヶ原の部隊としての威信がかかる8月の富士登山駅伝競走では、長年に渡ってエース区間の5区を任され、9年連続で区間賞を獲得している。陸上部の太田康幸監督も「宮原は別格」と評価する。
他のレースでは、2012年には富士山周辺で開催される「STY」(約80km)で優勝したほか、2015年からは「上田バーティカルレース」で4連覇、「尾瀬岩鞍バーティカルキロメーター」「粟ヶ岳バーティカルキロメーター」「びわ湖バレイバーティカル」での優勝など、「バーティカル」と呼ばれる距離5km未満で大きな標高差を駆け上るカテゴリーでは、国内でほぼ負けなしの状態だ。
海外レースでも早くから活躍し、米国コロラド州の伝統ある大会「パイクスピーク・マラソン」で優勝したほか、2008年、2009年にはマレーシアの「キナバル山国際登山マラソン」で2位となった。トレイルランニングの世界を長らく牽引してきた、スペイン人の絶対王者キリアン・ジョルネの背中が見えた瞬間だ。
「キナバルの山頂までは1時間40分くらいかかるのですが、折り返しでキリアンと50秒差だったんです。でも下りのスピードが全然違いました。その頃は、もしかしてキリアンに勝てる日が来るかもと思っていたのですが……。いまはさらに世界で高速化が進んでいて、速い選手がどんどん出てきているので、ちょっとそこには手が届かないですね」
自衛隊員が驚くストイックさ。
日常生活にも気を配り、食事も常に意識している。そのストイックさは、これまで数多くの自衛隊員アスリートを見てきた太田監督でさえ驚くほど。さらに、宮原のことが高校時代からの「憧れ」で、今春から滝ヶ原陸上部に加わった川崎雄哉もこう証言する。
「自分も九州のなかで走っているかぎりは登りに自信がありましたが、宮原さんと練習していると勝てないなと思うんです。筋肉のつき方からして、もう違う。宮原さんの強さのいちばんの源は突き詰めたストイックさにあると思います。
自分もわりと練習や食事ではストイックにできる方だと思うのですが、それ以上で……。とにかく自分の体をベストな状態に持っていく能力が際立っていて、それこそが簡単に真似できない能力なんです」