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自衛隊に究極のストイックランナー。
本業は装甲戦闘車の指揮と運転。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/07/23 08:05
陸上部の練習でも使うジープの前で、穏やかな笑みを浮かべる宮原徹。自衛隊最強ランナーだ。
9人乗り装甲戦闘車のドライバー。
宮原はいま、滝ヶ原駐屯地の普通科教導連隊の第一中隊に所属している。装甲戦闘車(89FV)を保有する中隊で、国内でも数少ない特殊な部隊だという。装甲戦闘車は9人乗りで、宮原は他の隊員と交替しながらドライバーや指揮を担当している。
普段は朝5時前に起床して、ランニング。8時15分の課業開始に間に合うように出勤する。その後の「勤務時間」はもちろん自衛官としての訓練・業務が優先される。
競技者としては「もっと練習したい」という思いもないわけではないが、その分、週末にはチームメイトの川崎雄哉やトレイルランニング仲間を誘い、富士山や箱根の金時山で走り込む。通常は勤務時間外のトレーニングが基本だが、8月初旬に開催される富士登山駅伝の準備期間だけは、特別に勤務時間内にも練習を行えるそうだ。
滝ヶ原に異動してきた翌年の2006年、宮原は富士登山競走の山頂コース(富士吉田市役所~富士山頂。21km、標高差3000m)に初出場し、2時間32分40秒という大会記録を叩き出す。その後、2011年には2時間27分41秒というタイムで自らコースレコードを更新。その記録はいまも破られていない。
このレースには近年箱根駅伝で活躍したランナーなども出場しているが、彼らの記録が宮原に及ばないことからもその実力のほどがわかるだろう。
富士山が近いという恵まれた環境。
滝ヶ原に来た頃、宮原は自分が山の登りに強いとはまったく思っていなかった。初めて練習で御殿場口の五合目から富士山の砂地を登ったとき、思いのほかいいペースで走れることに気づく。そして初出場の富士登山駅伝では、山岳パートの4区に配置される。
「山に強い理由ですか? はじめから意外に楽に登れてしまったので、いまだに自分でもよくわからないのですが……。しいて言うなら、鉄棒のトレーニングを続けていることくらいでしょうか。以前、体力測定に懸垂が入っていたので、その頃からずっと練習しています。懸垂逆上がりなんかは得意で。
それに、富士山が近いという環境に恵まれてもいる。走りにくい火山灰の土の上で練習しておくと、普通の山が楽に感じるんです」