球体とリズムBACK NUMBER
マリノスのアイドル天野純の旅立ち。
ベルギー2部で英雄になり殻を破れ!
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/07/11 11:15
“虹をかける”とも表現されるキックセンス。天野純にはベルギーの地でも鮮やかな軌道を描いてほしい。
安パイではなく、楽しいプレーを。
「まだ27歳。いまは一番あぶらが乗っている時期だと思う。そんなときに、安パイなプレーではなく、もっともっと相手にとって危険な選手に、もっと見ていて楽しい選手になりたい」
この大分戦で、彼が2週間前にも口にした「危険な選手に」なれていたかと問われれば、大きく頷くことはできない。ポジションは喜田拓也と並ぶ低めの中盤。監督の指示ではあるはずだが、バランスを取りながら配球役を担い、開始早々に惜しいボレーを放ったものの、高い位置での仕事はそれほど多くなかった。
セントラルMFとしての全体的なパフォーマンスでも、相棒の喜田拓也に劣った。5月度のJ1最優秀選手に輝いた背番号8はこの試合でも、出色の出来を披露。知的な位置取りと鋭い出足でピンチの芽を摘み取り続け、今季の台風の目と目される大分をシュート2本と沈黙させ、1-0の勝利に大きく貢献している(GK朴一圭の好守やチーム全体のプレスも見事)。
“アマジュン”は愛されるアイドル。
天野は良くも悪くも、多くの人に愛されるアイドルのような選手だと思う。
ニックネームは、その界隈にありそうな“アマジュン”。下部組織から大学を経てマリノスに入団した彼は、ファンの「時に温かく、時に厳しい声援に」育てられてきたと自負している。人当たりの良い対応と頻繁にこぼれる笑みから、メディアの受けもいい。
今季から10番を着け、同じく左利きの偉大なレジェンド、中村俊輔の後継者と目されるようになったが、率直に言って、残してきたインパクトは比較にならない。
中村は27歳の時、スコットランド随一の名門セルティックで、熱狂で知られる本拠地パークヘッドのサポーターを沸かせていた──磨き抜かれた左足から決定的な仕事をたびたび見せながら。彼もまた当地で多くの人のアイドルと崇められていたが、欧州で言う“アイドル”とは、“英雄”の意味に近い。
おそらく、もうすぐ28歳になる天野は、日本で言うところのアイドルから、ユニバーサルな意味における英雄になる挑戦へ踏み出したのだろう。