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優勝のジンクスは守られたが……。
ブラジル代表は雲の上の存在に?
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images
posted2019/07/08 17:30
大会MVPに輝いたダニエル・アウベス。チアゴ・シウバとともにチームを支え、優勝を引き寄せた。
「彼らはみんなヨーロッパにいる」
開催国にとって最高のフィナーレとなったコパ。だが約3週間、ブラジルを旅して強く感じたのは、セレソンと庶民の間の溝が、埋められないほど広がってしまったということだ。
いろんな街の食堂やバス乗り場やタクシーの車内で「コパを見にブラジルに来たんだよ」と話すと、多くの人が判で押したようにこう答えた。
「彼らはみんなヨーロッパにいる」
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その言葉に込められているのは、「彼らはみんな、俺たちの手の届かないところにいる大金持ちだ」という、なかば突き放したような感情だ。
代表チームのほとんどがヨーロッパでプレーするようになって、30年近くが経つ。セレソンは庶民にとって手の届かない「雲の上のチーム」になってしまった。
忠誠心の薄れはチケット高騰も原因?
そういえばベロ・オリゾンテの下町の食堂で、クルゼイロファンの婆さんがこんなふうに話していた。
「あの人たちから、セレソンのユニフォームを着る喜びが伝わってこない」
不幸なことに、セレソンの選手たちはどれだけがんばっても、ユニフォームへの忠誠心を疑われている。
庶民の心が離れてしまったのは、スタジアムに行けないという事情もある。
今大会に限ったことではないが、代表戦につめかける人々はお金持ちばかりになった。チケットが高くなって、庶民には手が出せなくなってしまったからだ。決勝のチケットはもっとも安い席でも260レアル。レアルが安いため日本円に換算すると7200円ほどだが、ブラジルでこれが払える人はひと握りしかいない。
華麗さはないが、みんなが手を抜かずにしっかりと最後まで走り抜いたチッチのセレソン。この結果とがんばりなら、庶民の心も少しは動かせそうな気もするが、果たしてどうだろうか。