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関根貴大、挫折の2年間と浦和帰還。
「僕、まだ、挑戦し続けますよ」
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2019/07/01 17:00
ドイツ、ベルギーの地で挫折を味わった関根貴大。しかしその眼はまだまだ死んでいない。
鎌田との連係で鮮やかなゴール。
プレーオフ2第6節、KFCOベールスホット・ヴィルレイク戦。試合開始直後、左サイドに張った背番号28がボールを持ち、瞬時に縦へ抜け出る。その凄まじい瞬発力にホームサポーターがどっと沸く。味方がCKを得るとスポットに立つ。意外にもボールの軌道は鋭く、正確に味方選手を捉えている。近接した味方とパス交換して相手を出し抜いたかと思えば、突如中央へカットインして相手ゴール前へ侵入する。
公称は167センチだが、おそらくもっと低い。180センチ超えの選手が居並ぶピッチで縦横無尽に駆ける彼には、『リトルジャイアント』の風格が漂う。
「ファン、サポーターの熱意や感情を味方に付けられたら。そんな思いに駆られたのは久しぶりだったけど、そう思えるのって、本当に幸せなことですよね」
ホームのシント・トロイデンは終盤を迎えて1-2のビハインド。諦め気味の観客がひとり、ふたりとスタンドから去る中で、試合途中にポジションを左から右に移していたサイドアタッカーが覚醒を果たす。中央へのカットインから“同胞”鎌田とのワンツーを挟んで左足を一閃。鋭角なシュートに相手GKは反応することを諦め、ボールは鮮やかにゴールネットへ収まった。
「試合後の大地のコメントを聞きました? 『彼自身が活躍するのは僕自身にとってもとても嬉しいことです。お互いドイツで苦労したもの同士なので』って言っていて、『おお、そうか、そうか』と思ってたんですけど、よくよく考えるとアイツ、僕よりも歳下なんですよね。どう考えても、大地が先輩の立場で僕のことを労っているように思えません? まあ、いいんだけど(笑)」
「元気くんがよく言うんです」
雌伏の時は、彼の青春を刻む一章でしかない。
「ひとつの目標をクリアしたのはサッカー人生の糧になる。ここから、のし上がるしかない。世界は広いっすよ。こっちには化け物が一杯居ますからね。ドリブルが上手い選手もいるし、凄まじいフィジカルを備えた選手もいる。でもね。先輩の(原口)元気くんがよく言うんです。『3試合あれば、人生は変えられるから』って。今の境遇を経て、その元気くんの言葉が、僕の胸に確かに響いている」
サマータイムに移行したベルギーに眩い太陽の光が降り注ぐ。かつて暗く淀んでいた景色が、今は鮮やかな色彩を帯びている。
たとえ今、日本へ戻ったとしても、その景色を心の中に思い描くことはできる。何処かを経由したことを誇りに感じ、それを原動力にして未来へ思いを馳せることができる。
幾多の試練を乗り越えた末に、愛するクラブへ帰還する。この決断は正しかったと思えるように、がむしゃらに頑張る。
「僕、まだ、挑戦し続けますよ」
澄んだ空の向こうで、遥か何万光年先の星が、眩いばかりに輝いていた。