「やっぱり航くん、持ってるよね」

「正直、嫌ですよ。日本人選手が多いのは。僕がシントへ来たときにはトミ（冨安健洋）しかいなかったんですけど、その後に（鎌田）大地、（遠藤）航くん、（小池）裕太（現在は鹿島へ期限付き移籍中）、（木下）康介くんと、次々に日本人選手が加入した。

　その中で、トミや大地、航くんなどは着々と実績を築き上げていったじゃないですか。ここで日本人に結果を残されたら、もう明らかですよね？　単純に自分の実力がないから試合に出られない。それがすべて。勝手にそう自覚するようになって、一層落ち込みました」

　ヨーロッパ各国はもちろん、アフリカからも有望な選手が集結するベルギーで逞しくプレーするチームメイトを、彼は羨望の眼差しで見つめていた。

「大地は元々ポテンシャルがある。フランクフルトでは単純にチームレベルが高くて出場機会が得られなかっただけで、その実力をシントで証明した。トミに関しては、最初に会ったときは伏し目がちで心細そうなイメージだったのに、今では堂々と振る舞っていて『人間って、僅か半年でこんなに変わるものなんだ』と、良い意味で驚いた。

　トミのプレーは劇的に変化しているように感じます。自信を備えた者は強いんだって思った。でも自分には、その自信がない。そうも思った」

　浦和時代のチームメイトである遠藤航がゲンクとのリーグ第2節で移籍後初出場初得点をマークした姿はアウェーのメインスタンドで観た。試合後はチームメイトがいるロッカールームへ寄らずに車へ乗り込み、ハンドルを握りしめながら「やっぱり航くん、持ってるよね」とつぶやき、静かに家路へついた。

新天地デビュー戦で流した涙。

　未来に思いを馳せた日々が色褪せていく。ドイツでの挫折を経て、それでも気力を振り絞ってベルギーで再起を誓った刹那に、ケガで戦闘不能に陥った。

「『なぜケガをしたんだろう』って自問自答してばかり。気持ちも焦って、厳しいリハビリに辟易していた。そのうちに、患部以外の部位に違和感を覚えるようになった。相当な負担が掛っているんじゃないか？　そう思っているうちにチームから復帰のゴーサインが出たんです」

　2018年9月1日。リーグ第6節、オーステンデ戦。84分に途中出場し新天地でのデビューを飾ったゲームで右ハムストリングを負傷した。1－0で勝利した試合終了直後、歓喜するチームの傍らで、関根はひとり、涙に暮れていた。

「ここまで辛抱強く頑張って、ようやく試合に出られるチャンスが来た瞬間に、またケガをした。しかも左足、右足と……。ドイツのときは実力がなかったって素直に思える。でもベルギーではプレーする前に、身体が言うことを聞いてくれない。サッカーの神様が僕にこう告げたように思えたんです。『お前はもう海外でプレーできない。諦めなさい』と。辛くて、悲しくて、涙が止まらなかった」

　リハビリは困難を極めた。ベルギーでは患部の回復とともに身体全体のベースアップを目論んだ厳しいリハビリ練習が課せられた。毎日早朝にクラブハウスへ行って3部に分けられたトレーニングをこなし、自宅へ帰るのはいつも日が暮れた夜だった。チームメイトよりも早く活動を始め、仲間が去った後にひとり荷物を片付けてクラブハウスを出る。彼は常に孤独だった。

【次ページ】　試合に出ないと課題すら見えない。