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バルサの「9番」が隠す野性味。
水色を纏うスアレスは変貌する。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2019/06/16 11:00
バルサではメッシとのコンビでゴールを量産するスアレス。ウルグアイ代表ではカバーニとのコンビで猛威を振るう。
替えの利かない稀有なストライカー。
しかし、バルサの首脳陣も分かっているはずだ。スアレスの代わりなど、そう簡単には見つからないことを。もちろん、すでに32歳となった彼の後釜を、広くマーケットで探し求めているのは事実だが、ピッチ上はもちろん、プライベートでもメッシと良好な関係を築くスアレスを、決定的な理由もなく手放すとは思えない。
むしろ近年のバルサの悩みの種は、スアレスの存在の大きさゆえに、彼の理想的なバックアッパーがなかなか見つからないことだ。初めから控えの立場を受け入れるようなストライカーの山に、掘り出し物が眠っている可能性は極めて低い。今年1月に獲得したケビン・プリンス・ボアテンクなどは、妥協の産物の最たる例だろう。
過去、何人ものビッグネームが苦労してきたメッシとの共存を、スアレスがいとも簡単にやってのけられたのは、彼がエゴと献身の完璧なバランスの上に成り立つ稀有なストライカーだからだ。
代表で見せるもう一つの顔。
ただ、ウルグアイ代表としてプレーする時、エゴと献身の比率はバルサでの5対5から6対4、あるいは7対3にまで変化する。代表では2トップを組むベストパートナー、エディンソン・カバーニが中盤まで下がって守備に、チャンスメイクにと奔走し、まさしくバルサでのスアレスのように「献身」の部分を大きく受け持ってくれるからだ。
そして、代わってエゴとともに顕在化するのが、スアレスが持つもうひとつの魅力、「野性味」だ。
相手DFを激しく罵り、レフェリーに食って掛かり、ときには倒れた選手を意図的に踏みつけたりするその獰猛な振る舞いは、「メッシ」という鎖をほどかれ、「愛国心」という餌を食んで、さらに苛烈さを増す。祖国に勝利をもたらすためなら、シュートを故意のハンドで止めることも、マーカーの肩に噛みつくことも厭わない。
「もっとクールにプレーしなきゃいけないって思ったこともある。けれどそうすると、フラストレーションばかり溜まって、大抵の場合は良い結果が出ないんだ。本能のままに、アグレッシブにプレーしてこそ俺なのさ」
バルサでは上手く飼い慣らしていた野性が、代表の水色のユニフォームを纏った瞬間、盛大に解き放たれる。