ビッグマッチ・インサイドBACK NUMBER
去るアザール、控えで腐らぬジルー。
チェルシーEL優勝で美しく終わる縁。
text by
寺沢薫Kaoru Terasawa
photograph byAFLO
posted2019/05/31 10:30
ELのトロフィーを手にして笑顔のジルー。一方でアザール(10番)はこの試合がチェルシーでのラストゲームとなるのが濃厚だ。
2人のプレーはウマが合っていた。
前半にも中央でワンツーを試みて狭いエリアを攻略しようとしていたアザールとジルーだが、2人はプレーのウマが合うらしい。
今季序盤、アザールは自身がハットトリックを決めたプレミアリーグのカーディフ戦で2アシストしたジルーについて、「素晴らしいターゲットマンだ。世界最高だと思う。彼は周りに多くのDFを引き寄せてくれるから、僕らは周りでフリーになれるんだ」と語ったことがあった。
一方のジルーは、「魔法使い」と称えるアザールと一緒にプレーするコツを「彼のプレーエリアに入らない」こと、つまりスターの邪魔をしないポジショニングだと話す。
思えば、ロシア・ワールドカップを制したフランス代表でもアントワン・グリーズマンを引き立てる黒子役として密かに輝いていたジルーだが、彼は小柄でスピード、機動力、テクニックがあるアタッカーとの相性が抜群だ。そういう選手を生かすシンプルなプレーの仕方をよく心得ているのだろう。
フランス時代のアザールとジルー。
そんなアザールとジルーが一緒のチームで活躍する姿を見ると、ひと昔前、パリ・サンジェルマンの1強と言われるようになる少し前のフランス・リーグアンを思い出す。
ちょうどパリSGがアラブ資本になりたての頃だった。アザールという天才児がリールにいるらしい、と聞いて試合を見た。
なるほど、当時まだ20歳そこそこだったが王様のように振る舞い、強気の仕掛けと多彩なトリックプレーで自分より大柄な選手をきりきり舞いさせる姿に見惚れた。そのシーズン、リールはリーグアンを制覇し、アザールはリーグの年間MVPに選ばれた。
その翌シーズンも、アザールとリールの活躍に興味を持ってリーグアンを追っていたが、優勝したのは別のチームだった。
それが伏兵だったモンペリエで、その主砲でありリーグ得点王に輝いたのが、ジルーだった。守備が基調のチームで速攻が主だったが、決して多くないチャンスをワンタッチで射止めるゴールセンスが際立っていて、どんな時でも懸命に戦う姿勢も目を引いた。