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チャナティップはなぜ愛されるのか。
「タイのメッシ」と日本の好相性。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/06/01 08:00
昨シーズンは30試合で8ゴールをあげ札幌の4位躍進の原動力となったチャナティップ。今季も好調なチームを牽引している。
いつも笑顔で、目配りができて、まじめ。
名古屋で6年プレーし、'14年と'15年にチェンライ・ユナイテッドで活躍、現在JFLのマルヤス岡崎に所属する杉本恵太が語る。
「向こうでチャナティップと対戦したことがありますが、彼とティーラトン(現横浜F・マリノス)、ティーラシン(元広島)の3人はタイでも別格で、日本でも通用すると思いました。それにぼくは、3人の中でもチャナティップがいちばん成功すると思っていたんですよ」
杉本が着目したのはキャラクターだ。
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「タイ人は一般的に気性が荒いですが、チャナティップは性格が日本人っぽいんです。優しくて笑顔を絶やさないのはもちろん、周りに目配りができて、やるべきことにまじめに取り組む。スター選手はプライドが邪魔をして、異なる環境に溶け込めないケースもありますが、彼の場合、そんな心配はいらないと思いました」
日本とタイを知る人ならではの視点だ。
ミシャも褒める機敏性とハードワーク。
次はチャナティップの才能を引き出した、札幌の指揮官ペトロヴィッチの言葉。
「彼は素早く動き、ボール扱いが巧みで、次の予測が早い。つまり小柄なことをハンデにせず、むしろアドバンテージに変えているのです」
チャナティップは、巧くて速くてハードワークを厭わない。これらは日本人の特徴と重なるため、ともすれば埋没する恐れもある。それでも彼が目立つのは、日本人以上に巧くて速く、ハードワークするからだ。懐に潜り込んで敵を振りまわし、わずかなスペースに飛び込んでゴールを奪う。負けん気が強く、華もあるため、ボールを持つと大歓声が沸き上がる。
チャナティップに続けとばかり、今季もまた同胞がJリーグの門を叩いた。代表の僚友でもある大分のティティパンである。
ティティパンは以前から、チャナティップに「日本ではタイのように80%じゃダメだ。毎回100%の力を出さなきゃいけないぞ」と助言されていた。しかし大分の練習は想像以上で、初日の練習を終えてチャナティップに電話でこう訴えた。
「おまえの言う通りだった。ほんとうに疲れたぞ。日本の練習って大変だなあ」
するとチャナティップは「言った通りだろう?」と笑っていたという。