酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
上原浩治の制球力は日本史上最強。
置かれた所で咲いた「雑草」の花。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2019/05/29 12:00
全身を跳ねるように使いながら、驚異的な制球力でボールを投げ込む。上原浩治は本当に稀有な投手だった。
日本復帰後にも見せた躍動感のある投球。
昨年、10年ぶりに巨人に復帰した上原は、3月31日の初登板から4試合連続無失点で4ホールドを記録した。速球は140kmそこそこだったが、四球は0、失投もなかった。制球力はさび付いていなかった。
私は最初の登板を見た。驚異的な制球力の持ち主だが、上原は「置きに行く」ような投球はしない。全身を使って躍動感のある投球をする。マウンドで伸びあがるような上原の投球フォームをもう一度見ることができてよかったと思った。
残念ながら、以後は痛い被本塁打で成績を落としていったが、上原は20年たっても溌剌としたマウンドを我々に披露してくれた。
置かれたところで咲いた花なのだ。
NPBでは先発、クローザー、MLBでも先発、クローザー、セットアッパー。上原の持ち場はいろいろと変わった。日米通算100勝、100セーブ、100ホールドは、持ち場が変わっても力を存分に発揮した上原の勲章である。
この記録は、NPB単独でも、日米通算でも上原しか記録していない。MLBでもトム・ゴードン(イチローの“弟子”ディー・ゴードンの親父だ)の138勝158セーブ110ホールドがあるだけだ。
しかし、上原の数字はどこをどうとっても名球会の基準には達しない。野球殿堂入りの基準としても厳しそうだ。しかし、それも上原の個性だろう。
上原の日米通算のキャリアSTATSを見ていると、私は渡辺和子シスターの「置かれた場所で咲きなさい」という言葉を思い出す。
“時間の使い方は、そのままいのちの使い方。置かれたところこそが、今のあなたの居場所なのです。「こんなはずじゃなかった」と思う時にも、その状況の中で「咲く」努力をしてほしいのです”
どんな持ち場でも腐らず、全力を尽くす。上原のこの記録は「置かれたところで精いっぱい咲いた花」の数なのだ。上原浩治は「雑草」だそうだが、その花はきっといい色をしていたに違いない。