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上原浩治の制球力は日本史上最強。
置かれた所で咲いた「雑草」の花。

posted2019/05/29 12:00

 
上原浩治の制球力は日本史上最強。置かれた所で咲いた「雑草」の花。<Number Web> photograph by Kyodo News

全身を跳ねるように使いながら、驚異的な制球力でボールを投げ込む。上原浩治は本当に稀有な投手だった。

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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Kyodo News

 近くで見る上原浩治は、ずいぶんと大きな選手だ。187cmもある。菅野智之よりも1cm高く柳田悠岐とほぼ同じ身長だ。上原が巨漢だと感じさせないのは、この投手が、NPBの83年の歴史の中で「最も制球力がいい投手」だからだ。

 神様のようなコントロールを持つ名人投手が、見上げるような大男であるはずがない。そんな先入観があるのだ。

 その数字はとにかく圧倒的だ。

 NPBで1500イニング以上投げた投手のBB9(9回あたりの与四球数)10傑

1 上原浩治 1.20(211与四球 1583.2回)
2 土橋正幸 1.21(339与四球 2518.1回)
3 高橋直樹 1.48(473与四球 2872.2回)
4 村田元一 1.49(357与四球 2154回)
5 杉浦忠 1.53(409与四球 2413.1回)
6 山内孝徳 1.54(316与四球 1842.1回)
7 渡辺省三 1.569(352与四球 2018回)
8 大石弥太郎 1.574(264与四球 1508.2回)
9 白木義一郎 1.60(307与四球 1725回)
10 足立光宏 1.64(567与四球 3103回)

 古今、日本プロ野球では「針の穴を通すコントロール」と言われた投手がたくさん出た。なかでも東映のエースとして162勝を挙げた土橋正幸は抜群で、引退から30年以上、土橋のBB9を上回る投手は出てこなかった。土橋こそが日本で最も制球力がある投手だった。

 それを上原が抜いたのだ。上原が通した針の穴はNPBで一番小さかった。上原は完投して2個四球を出したら「今日は制球がすごく乱れた」というレベルなのだ。

次元が違う日本史上1位の記録。

 上原は四球を出さなかっただけではない。三振もたくさん奪っている。

 四球はどんなにうまい野手でも出塁を阻止できない、守備側から見れば「最も残念なリザルト」だ。一方、三振は振り逃げ以外では絶対に出塁を許さない「最高のリザルト」だ。奪三振数を与四球数で割ったKBBは、投手にとって最重要の指標の1つとされている。

 これはこのコラムで以前にも紹介したが、KBBでも上原はNPB史上1位だ。

1 上原浩治 6.64(1400奪三振 211与四球)
2 土橋正幸 4.61(1562奪三振 339与四球)
3 杉浦忠 4.29(1756奪三振 409与四球)
4 成瀬善久 3.77(1199奪三振 318与四球)
5 稲尾和久 3.58(2574奪三振 719与四球)
6 村山実 3.55(2271奪三振 639与四球)
7 川上憲伸 3.53(1381奪三振 391与四球)
8 杉内俊哉 3.51(2156奪三振 614与四球)
9 岸孝之 3.48(1595奪三振 458与四球)
10 和田毅 3.45(1520奪三振 441与四球)

 ここでも上原が土橋を抑えて1位だが、その差に注目してほしい。上原は6.64、土橋は4.61。次元が違うのだ。

 ちなみにMLB歴代1位は、現役のクリス・セール(レッドソックス)の5.30だ。

【次ページ】 メジャーでも、何度もリーグ1位に。

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