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“日本最速市民ランナー”桃澤大祐。
メッキ担当の会社員が日本選手権へ。 

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別府響(文藝春秋)

別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2019/05/18 11:00

“日本最速市民ランナー”桃澤大祐。メッキ担当の会社員が日本選手権へ。<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

5000mで13分55秒84、1万mで28分25秒56というベストタイムを持つ桃澤大祐。長野のサン工業で働きながら走る市民ランナーだ。

自信があった頃より今の方が速い。

 学生時代に耳にした指導者の言葉も、ここへ来て、本当にその意味が分かってきた気がするという。

「よく、監督もコーチも『練習のための練習にならないように、レースをイメージして』と言いますし、みんなわかっているんです。でも、それが本当にできるかが難しい。例えば自分はいま、練習の前の日に緊張して眠れない時があるんです。毎日『今日が試合なんだ』という気持ちを持ってやっているからこそ、大学時代より悩みますね。

 大学時代は『このトレーニングができれば結果は出る』という自信はあった。今の方が練習が終わった後に『本当に今日はこの練習でよかったのかな?』と考えることも多いです。ただ、いまの方が記録は出ているので、逆にこうやって悩むことが大事なのかなと思っています。自信を持つことも重要なんですけど、悩んでいる=考えているということだと思うんです。

 大学時代のメニューの根本は、監督やコーチが作ったものがベースになる。そういう中で『このメニューができたら絶対に走れる』というのはあったんですけど、その分、今思うと他人任せになっていたのかなと。考えていた『つもり』ではあったんですけど、気持ちのこもり方が違いました」

大学の同期で、日本歴代5位の男。

 そしてもうひとつ、桃澤が成長の理由として挙げたのが、モチベーションの置き方だ。

「やっぱりモチベーションって、1つだけでは続けられないと思うんですよ。いろんなモチベーションが必要で、タイムや結果だけを求めると、なかなか持たない。陸上競技はコンディションにも左右されるのでタイムが出ない時の方が多い。そういう時に記録だけでしかモチベーションを保てない選手は、厳しくなってしまうのかなと思います」

 桃澤にとって、最も大きな目標のひとつが、大学時代の同期でもある井上の存在だ。井上は箱根駅伝でも活躍し、現在はマラソンで日本トップクラスのランナーへと成長した。昨年の東京マラソンで出した2時間6分54秒という記録は、日本歴代5位に相当し、東京五輪の代表有力候補に必ず名前が挙がる存在になっている。

「僕は、井上に勝ちたいという想いが学生時代からずっとあります。彼は大学時代も確かに強かったんですけど、入学直後から世代トップの選手だったわけではない。4年間、彼が成長したり、苦しんだりしている姿を間近で見られたのはすごく大きな経験になりました。だからこそ、どの種目でもいいから彼に勝ちたいという気持ちはまず1番のテーマとしてあります」

【次ページ】 結果以外の価値観が、桃澤を強くする。

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