Jをめぐる冒険BACK NUMBER
清水と磐田が覇を争った1999年CS。
澤登の超絶FK、残酷なPK戦の結末。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2019/05/07 11:30
清水の象徴だった澤登正朗(右)に、磐田の有望株として台頭してきた高原直泰。静岡ダービーは熱く燃えていた。
中山の2ゴールで第1戦を制す。
アレックスの特徴を知り尽くした右サイドバックは、右MFの藤田俊哉のサポートを得ながら“清水の槍”を封じ込めると、返す刀でクロスから中山雅史のゴールをアシスト。その後、澤登正朗のゴールでスコアはイーブンに戻ったが、延長前半8分、相手DFのハンドで得たPKを中山が決め、磐田が年間チャンピオンに王手をかけた。
もっとも、ホームの第2戦で清水が90分で勝てば、王座は清水のものとなる。当然ながら、第2戦は立ち上がりから清水が猛攻に出た。
前半7分にはアレックスが強烈なミドルシュートを放ち、11分には細かいパス交換から澤登がエリア外から狙ったが、いずれもGK尾崎勇史のセーブに遭う。
アレックスの行く手には相変わらず、藤田と安藤の姿があった。そのため、アレックスは中央に切れ込む回数を増やしていく。
だが、それこそが、周到に仕掛けられたワナだったのかもしれない。
アレックスの退場で大ピンチ。
待ち受けていた右ボランチの三浦文丈が、執拗なマークでオレンジの8番から自由を奪う。包囲網は第1戦よりもさらに狭められていたのだ。
見せ場を作れない22歳のレフティは、苛立ちを募らせていく。そして前半35分、ファウルを受けて三浦とともにピッチに倒れ込むと、怒りで我を忘れて三浦のわき腹に右足を見舞ってしまう。
報復行為による一発退場。その1分前にはDFのミスを突かれ、服部年宏のミドルシュートで先制されていた。勝利が必要な大一番で1点ビハインドのうえに、10人での戦いを強いられることになったのだ。
サンバのリズムがぴたりと止み、静まり返るホームゴール裏。しかし、この絶体絶命のピンチにも、冷静な男がいた。
清水のキャプテン、澤登である。