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富樫勇樹の原点は恩師の言葉。
「バスケ界のカズになれ」
posted2019/04/22 17:00
text by
石川歩Ayumi Ishikawa
photograph by
B.LEAGUE
「戻れ」「強気でいいんだ」「あと3秒」……戦況に応じて声援が変わり、その声は大きな渦になって体育館を包みこみ、秋田ノーザンハピネッツのプレーを後押しした。
あの日、体育館に集まったすべての人は、目の前で繰り広げられた試合にあまねく感動し、戦い終えた選手たちに心からの拍手をおくったのではないか。それくらいに圧倒的な熱量をもった試合だった。
4月3日、秋田県立体育館に東地区首位の千葉ジェッツを迎えたBリーグ第32節は、地区優勝を目指す千葉と、残留プレーオフを回避したい秋田のどちらも負けられない一戦だった。
一進一退の攻防、最後は劇的な幕切れ。
スタートからホームの秋田が主導権を握り、44-34で前半を折り返すと、第3Qを10点前後のリードで進める。残り6分半、秋田のフォワード・野本建吾が千葉の強固なセンターをかわすドライブからシュートを決め55-39にしたところで千葉がタイムアウト。ここから会場は熱狂的な雰囲気に包まれていく。
第4Q、秋田が5点前後のリードを保ちながら進む拮抗状態のなか、残り4分50秒、田口成浩にフリースロー3本が与えられる。昨年まで7シーズン在籍した秋田のファンから向けられる力強いブーイングのなか、3本中2本を決めて76-73と千葉が詰め寄る。
さらに残り30秒で富樫勇樹が3ポイントシュートを決め、83-84と千葉がリードを奪うと、残り11秒にも富樫がフリースローを決めて83-85と2点差にする。次の秋田・野本のシュートが外れ、残り5秒でリバウンドをとったのは田口だった。
その瞬間、田口は体育館の天井に向かってぽーんと高くボールを投げ上げた。時計は残り0.3秒、落ちてきたボールをとって保岡龍斗が打ったシュートはゴールに届かず、試合はぷつんと幕切れを迎えた。83-85、千葉の勝利だった。
田口は最後のプレーについて、後日こう振り返った。
「あれは僕の時間配分ミスです。2点差しかなかったのでファウルされるよりも時間を進めたくて投げ上げたけれど、時間が残っていた。時間と投げ方どちらも間違ってしまった」