猛牛のささやきBACK NUMBER
イチローと比べられてきた男、
田口壮は「引退」を聞いて何を思う。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2019/04/05 11:30
2004年、試合前に笑顔で言葉を交わすマリナーズのイチロー(左)とカージナルスの田口(右)。
「ひとつの時代が終わる」
「時代の終わりというものを、これだけ強く感じたことはありません。どう表現すればいいのかわからないけども、ああ、ひとつの時代が終わるってこんな感覚なんだ、と。いつもあったものがなくなるということの寂しさしかないですよね。当たり前のものがなくなって、ひとつの時代が終わる。その感覚が初めてなので、こんな感覚になるのか……と」
場所は変われど、イチローが野球をしていることは、今まで当たり前のことだった。その“当たり前”を、この28年間、誰よりも近くで、そして時には重く、感じてきたのが田口壮だったのではないか。
イチローが'91年のドラフト4位でオリックスに指名されたとき、1位で指名されたのが田口だった。年齢は大卒の田口が4歳上だが“同期”である。
ともに外野の主力選手として'95、'96年の連覇に貢献。イチローは'00年オフにメジャーリーグ・マリナーズへと渡り、田口も'02年にカージナルスに移籍した。
「イチローと同期」としての葛藤。
「彼と同期で入ったのは、幸か不幸かわからないですけれども」と田口は言う。
その言葉から、同期としての葛藤がうかがえる。
プロ生活をスタートさせた時から、特に、'94年にイチローが当時の年間最多安打記録である210安打を放ってブレイクして以降、常にイチローと比較されたり、節目ごとにイチローについてのコメントを求められてきたことは想像できる。
「この先はどうかわからないですけど、彼がずっと現役でいた昨日までというのは、よくも悪くも、ずっと(イチローのことを)言われ続けた。彼の場合は、彼に僕の名前がついていくことはないけども、僕には必ず『イチローの……』という肩書きというか、形容的なものがついてきた」