猛牛のささやきBACK NUMBER
イチローと比べられてきた男、
田口壮は「引退」を聞いて何を思う。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2019/04/05 11:30
2004年、試合前に笑顔で言葉を交わすマリナーズのイチロー(左)とカージナルスの田口(右)。
自身と向き合えたのはイチローのおかげ。
「でも、彼と一緒にやったから、僕はたぶん現役を20年できたのかなと思うんです。圧倒的なパフォーマンスと、圧倒的な存在感を示されて……。そりゃ最初は勝てると思ってやっているし、勝たないといけないと思ってやっている。でも、毎年見せつけられていくわけですよ。そりゃ1年首位打者を獲ったり、200安打を打っただけならまだいいですけども、それが2年、3年と続いて……。
それを見せられた時に、ちょっと待て、となる。僕自身、どうやって生きていくのかと考えるきっかけは、彼の圧倒的なパフォーマンスと存在感から生まれてきてるんです。
『勝てない』と打ちのめされて、でもそこから自分で、じゃあ勝負強いバッターになるにはとか、守備ももっとしっかりやらなきゃいけない、といったところに変わっていったわけですね」
チャンピオンリングを2度掴んだ田口。
田口はメジャーに行ってからよりいっそう、チームの状況や戦力などを見て、自分がどんな選手であれば必要とされるのかをくみ取り、求められる役割を果たしてポジションをつかんでいった。
「どうやったら自分がこの世界で生き残れるかをいつも考えて、そのためにいろいろな策を練っていました」と振り返る。
イチローのように記録に残る数字を打ち立てたわけではないが、チームに足りないピースとなって隙間を埋め、イチローが手にすることのできなかったチャンピオンリングを、田口は2度も手にし、42歳まで現役を続けた。
「彼がこの先どうするのかわからないですけど、草野球に呼んでもらえるように、肩を鍛えておきます」
最後は寂しさの入り交じった穏やかな笑顔で、そう言った。
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