猛牛のささやきBACK NUMBER
イチローと比べられてきた男、
田口壮は「引退」を聞いて何を思う。
posted2019/04/05 11:30
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
イチローが引退を発表した翌日の3月22日。遠征から京セラドーム大阪に帰ってきたオリックスには、どことなく寂しさが漂っているように感じられた。
メジャーリーグ1年目に新人年間安打記録を更新し、メジャー最多の10年連続200安打という記録を刻んだ。日米通算4367安打、メジャー通算3089安打という金字塔を打ち立てた。WBCでは日本の大会2連覇に貢献。世界に認められたイチローが、日本でプレーしたチームがオリックスだった。
そのことは、イチローがいた1996年以来、22年間リーグ優勝から遠ざかっているオリックスにとって誇りだった。
毎年オフは神戸で自主トレ。
'04年にオリックスと近鉄が合併し、オリックス・ブルーウェーブがオリックス・バファローズになったあとも、イチローは毎年オフに神戸で自主トレを行っていた。神戸の青濤館で合同自主トレをスタートした新人選手が、毎年イチローに挨拶に行き、イチローへの憧れの強い選手は「緊張しすぎて何も覚えていない」などと語っていたものだ。それは球団の施設が神戸から舞洲に移った'17年まで続いた。
また、イチローと親交の深い宮内義彦オーナーが、オリックスに戻ってきてほしいとラブコールを送るのも毎年オフの恒例行事だった。
プロ生活の最後には、オリックスに帰ってきてくれるのでは……。球団やファンのそんな淡い期待は、昨年5月にイチローがマリナーズの会長付特別補佐に就任したことで大きくしぼんだ。そしてついに、引退の日を迎えてしまった。
引退翌日は、オフにイチローと一緒に自主トレをしたことがあるT-岡田や杉本裕太郎、さらにともに優勝を経験した平井正史投手コーチなど、イチローに縁のある人物が記者に囲まれた。
誰よりも喪失感を漂わせていたのは、田口壮野手総合兼打撃コーチだった。その心情を「虚無感」と表現した。