まだ自分のことだけで精一杯。

　楠本の表情や言葉には慢心などなく、向上しつづけたいと願う執念が見え隠れした。

　実はオフシーズンにメンタル面において重要ともいえる再会があった。楠本は、花咲徳栄高校の同期であるオリックス・バファローズの若月健矢と一緒に練習をしたという。高卒でプロ入りした若月は、今季6年目を迎える正捕手である。

「いろいろと野球の話をしました。若月は今シーズンから選手会長を務めることになったんですが、6年目となるとチームのことも考えるようになり、自分とは違う野球観を持っていることに気づきました。

　自分はまだ自分のことだけで精一杯。チームのことまで考えられる選手がレギュラーとして1年間戦う選手なんだと、そういう立場に自分もなりたいと思ったんです。若月が大人に見えたというか、2歩3歩先に行っていると感じたし、早くそこに追いつきたいですね」

　誰からも頼られる選手になってこそ一人前。高校の同期から刺激を受けた楠本は、生き残るだけではなくその先までを見据え、心の内に大志を抱き、熾烈な外野手競争を勝ち抜くつもりだ。