メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
隣の兄ちゃん・田澤純一の挑戦。
「結果が出ても上がれないのがフツー」
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2019/03/20 10:30
メジャー直行を選ぶ選手が増えてきた今、田澤純一の注目度はさらに上がっている。彼は後進に夢を与える存在なのだ。
自分の骨の位置、姿勢を丁寧に確認。
田澤は上り坂に向かってシャドーをした後、普通にプレートを踏んで下り坂に向かって投げた。上り坂という名の壁を取り除いたため、同じように強く腕を振ると前のめりになり、駆け出すようなフィニッシュになる。
ややゆったり目にはいたユニフォームの下で、左の四頭筋がムキっと浮き上がって見えた。
いつからだろう。例えば大股でステップする自重スクワットを始める前、彼はまるで骨盤の位置を確認するかのような仕草を見せてから、練習を始めるようになった。
「そういうことを考え出したのは、ここ数年です」
一昨年のオフから、筑波大学で体の動きを考えながらトレーニングしている。正しい姿勢でウェート・トレーニングしなければ、本来の目的とは違った部位が動き、鍛えたい場所が鍛えられない。ウェート・トレーニングの基本であり、大事なことだ。もちろん、トレーニングだけじゃない。効率よく体を使い、しっかりとボールに力を伝える。投げる動作の中にも、それを反映させようとしている。
「そもそもがチゲーんじゃないかと」
「今よりも上に行きたいんで」
あらためて「向上心」などと書く必要はないだろう。アスリートならば誰もが持つべきモチベーションだ。田澤もまた、2009年に新日本石油ENEOSからレッドソックスに入団して以来、そんな気持ちを持ち続けてきた。
抑えても慢心せず、打たれたら深く反省する。簡潔に話をまとめ、虚飾的な言葉は使わない。そんな真面目で大人しいイメージはしかし、彼の素顔とは少し、違う。
普段の田澤には「隣の兄(アン)ちゃん・横浜バージョン」みたいな部分がある。
たとえば、3月7日のオープン戦でロッキーズを1回ノーヒットに切って取った後、今まで高温多湿のフロリダでしかキャンプを経験したことがなかった田澤に、乾燥した空気のアリゾナでのキャンプについて質問すると、こんな答えが返ってくる。
「そもそもがチゲーんじゃないかと」
ふふん、と鼻で笑うかのような表情で、田澤はそう言った。「チゲー≒違う」の言い方が、今風といえば、今風だ。