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イチロー262安打時の監督が宣言。
「感情は切り離して勝ちにいく」
text by
ブラッド・レフトンBrad Lefton
photograph byNaoya Sanuki/Yukihito Taguchi
posted2019/03/18 07:00
2011年からアスレチックスを率いるメルビン監督(右)。イチローとのエピソードについて語ってくれた。
160試合以上に出られる耐久性。
そもそも日本から来た身長180cm、体重77kgの外野手が、162試合というメジャーの日程に耐えられるのか、ほとんどのアメリカ人が疑問に思っていた。そのため、イチローがメジャーに来て最初の3年間はスタメン出場が152、153、156試合に留まっていた。
しかし、メルビンがその耐久力に気付いてからというもの、'04年からの8シーズンのほぼすべてで、イチローは160試合以上にスタメン出場してきた。
唯一の例外は第2回WBCで侍ジャパンを世界一に導いた'09年に、胃潰瘍になって開幕から故障者リスト入りしたときだけだ。
2人に共通する野球の価値観。
耐久性を認めたこと以外にも、メルビンとイチローは野球の細かな価値観で通じ合っていた。特に盗塁、走塁における状況判断を2人とも大切にしている。
また、とてもバントを選択する場面ではないと思っていてもイチローがバントをしたときに、メルビンは怒らずにイチローの意図を理解しようとした。
「確かにアメリカの野球からすると、ここでバントはしないだろうという場面はありました」
と、メルビンは記憶を掘り起こした。
「ところが、『なぜバントしたのか』と彼に聞くと、いつも論理的な裏付けが必ずありました。イチローのように能力の高い選手がいれば、彼の判断を邪魔してはいけないので『じゃあ、気にせずにいいと思うプレーを続けてくれ』と言うのが一番いいんです」
野球観のみならず、メルビンはイチローの打撃にいつも驚かされていた。
「何が驚きかって、ベース上のどこにボールが来ても打てることです。これは当たり前だけど、すごく難しいことなんです。イチローは打ちに行きながら途中で微調整ができるから、すべてのゾーンをとらえることができる。ありえない技術ですし、いつ見ても面白いです」