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ミルコ・クロコップが完全引退。
超ストイックな闘争本能の記憶。
posted2019/03/13 16:30
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Kyodo News
「お前の目はいったいどこを見ていたんだ?」
一瞬にしてインタビュースペースに緊張感が走った。2003年3月30日、当時人気絶頂だったボブ・サップから会心のワンツーでKO勝利を奪った直後の会見。ミルコ・クロコップのパンチは明らかにサップの目を狙ったように見えたので、そのことを確認しようと思い、筆者が「目を狙ったのか?」という主旨の質問を投げかけた直後の答えがこれだった。
ミルコは見ればわかるだろうと言わんばかりに不機嫌になり、冒頭の言葉を投げかけてきたのだ。
その後、顔見知りの記者から「最高のやりとりでしたよ」と労いの言葉をかけられたことを覚えている。
パンチを受けた直後、サップは一瞬間を置いて自分の目を押さえるや戦意喪失となったのだから、私の見立ては間違っていなかったと思う。
ただ、質問の真意が伝わらなかったのであれば……どうしようもない。
全盛期のミルコは限りなく魅力的だった。
実はこの時のミルコは高熱を押しての出場で、母国クロアチアへ試合が衛星生中継されるという極度のプレッシャー状態にあったことを聞いたのはかなりあとになってからのことだ。
いずれにせよ、勝てば少々傲慢になり、負ければ涙ながらに本音を語る。ミルコほど勝つか負けるかで、その後のコメントに差が出る選手はいなかった。
近年はかなり穏やかになったが、だからといって控室が一緒の選手と必要以上に仲良くなることもなかったと記憶する。
筆者には、気持ちに極端なほど浮き沈みのある、20~30代半ばのミルコはたまらなく魅力的に映った。