「よし、鍛えて、勝とうと」

松岡「でも、それも秀樹さんだからそういう捉え方ができたのかもしれないな。足の自由が奪われて、得意の腕相撲でも負けて、俺なんてもう何をやってもダメだってなる人もいると思う。僕だったらそうなってます。なぜそうならなかったんでしょう」

大堂「なぜかはわからないですけど、ならなかったですね。よし、鍛えて、勝とうと」

松岡「勝ってやろうという、超前向きなエネルギーが湧いてきた！」

大堂「多分、ギリギリ勝てないくらいだったらそこまで思わなかったのかもしれない。圧倒的に負けすぎたんですね。だから憧れもありました。悔しさと憧れが原動力でしたね」

松岡「病院で練習を始めたんですか」

大堂「さすがに病院にはベンチがないので、まずはリハビリをすごく頑張って、退院してから高橋さんに会いに行くんです。でも、ものすごいごっつい身体ですけど、キャラクター、イメージで言うと高田純次さんのような、けっこういい加減な人なんです（笑）。だから『練習に連れていって』と言っても、『また今度な』っていなされちゃう。また今度、また今度が続いて、結局、退院してから2年くらいは始めることができなかった」

松岡「2年も！　ベンチプレスを始めようと決心したのに、2年間バーベルを触らなかったんですか」

大堂「触ってないです。だから、ひたすら家で筋トレしてました」

松岡「とりあえず自分で始めてみようとは思わなかったのですか？」

大堂「もう高橋さんと一緒にやる、と決めていたので」

松岡「そこが不思議なんです。前向きなようでいて、すごく古風というか。だって、高橋さんに勝ちたいなら、自分で工夫して練習した方が良いですよ。相手のことを全部研究して、本とか読んで対策した方が」

大堂「当時は今ほど筋トレの情報がなかったですから。健常者、障害者ではなく、筋トレの情報自体がすごく少なかった」

松岡「でも、例えばですよ、当時もスポーツジムはあったでしょうから、器具に触ることはできたはずです。たとえ20kgでも持ち上げてみれば良かったと思うんですけど」

大堂「ジムは行かなかったけれど、家にバーベルではないですけど、筋トレのマシンを買ったんです。当時よく『週刊少年ジャンプ』の裏表紙に広告が載っていたじゃないですか。“プロレスラーの獣神サンダー・ライガーも愛用！”みたいな（笑）。そういうマシンを買って、組み立てて使ってました」

松岡「アハハ、気持ちが少年ですね（笑）。そうやって体を鍛える日々を、2年続けたわけですね」

大堂「そうです。そうしてやっと高橋さんをつかまえて、初めて練習に連れていってもらえた。その日に確か、ベンチプレスで80kgを上げたんです」

松岡「高橋さんもびっくりしたでしょう。今考えると、高橋さんはいい加減に見えて、あえて2年間バーベルに触れさせなかったという気はしませんか。何か意図があって、そうさせたと」

大堂「まったくないです」

松岡「ハハハ。でも、結果的には2年間の自主トレのような期間を経て、ようやくパワーリフティングをしっかり教わる機会を得たんですね」

大堂「もっと早くそんな機会があればとも思うけど、高橋さんが連れていってくれなかったから（苦笑）。まあ2年もしつこく粘る自分もあれですけど」

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