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『天翔る』
身体能力以上に“思いやり”が必要。
エンデュランス馬術の稀有な魅力。 

text by

行成薫

行成薫Kaoru Yukinari

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posted2019/03/09 15:00

『天翔る』身体能力以上に“思いやり”が必要。エンデュランス馬術の稀有な魅力。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『天翔る』村山由佳著 講談社文庫 780円+税

 馬に乗るスポーツ、と聞くと、競馬か馬場馬術を連想する方がほとんどだろう。ところが、本書『天翔(あまかけ)る』に登場するのは、「エンデュランス馬術」という聞き慣れない競技である。

 本書は、不登校になってしまった少女・岩館まりもが、乗馬と出会ってエンデュランスの大会に出場するまでを描いた物語だ。まりもは天性の乗馬センスを持った少女だが、その才能を開花させ、苦難を乗り越えながらライバルたちとの熱いレースを勝ち抜き――、というスポーツ小説の王道ど真ん中は走らない。


 enduranceとは、忍耐、耐久を表す語だ。つまり、エンデュランス馬術とは長時間耐久の乗馬レースのことである。最高峰の大会であるテヴィス・カップは、険しい山道を24時間で百マイル(約百六十キロ)も走破する、馬版ル・マン24耐のようなものだ。だが、他のレース競技と異なる特徴は、一定区間(レグ)ごとに馬の健康診断が行われるということ。馬がケガをしてしまったり、無理に走らせて過度に疲労させてしまったりすると、たとえ着順が上位でも失格となってしまう。ライダーは、誰よりも早く完走することを目的としながらも、同時に馬の状態を気にしなければならないのだ。

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