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柔道も野獣もやめた金メダリスト、
松本薫が本気でアイスを作る理由。
 

text by

雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byKeigo Amemiya

posted2019/02/26 11:30

柔道も野獣もやめた金メダリスト、松本薫が本気でアイスを作る理由。<Number Web> photograph by Keigo Amemiya

店を訪れるとかっぽう着姿で店先に立っていた松本薫。その表情に野獣の面影はもうない。

「柔道は目標、夢であっただけ」

 連覇に挑んだ2016年のリオ五輪では銅メダルを獲得し、2017年7月に女児を出産した。2020年東京五輪でのママでも金を目指して復帰したが、「私の優先順位の1番が柔道よりも子供になってしまった」と母親としての本能は抑えきれず、闘争心の衰えが引退へとつながった。

「人の笑顔を作るためにやっているので野獣にはなれない」という松本は子供を育て、おいしいアイスを世に届ける新しい暮らしをすでに生きている。

 目標だった東京五輪への思いは今はアイスと同じくらいさっぱりとしたもの。「オリンピックのときはアイスクリーム売っているので、世界中のみんなが来てくれたらいいなと思います」。柔道への未練もなく、指導者として復帰する考えは現状ではほぼない。

「(漫画の)キャプテン翼とかは『サッカーボールはともだち』ってすごくサッカーが好きで、好きじゃないとダメという洗脳が私の中にあった。私の周りもみんな柔道が好き。私も好きじゃないとダメだ、でもどこか違うなというのがあった。

 引退した今わかるのは、私にとっての柔道は目標であり夢であっただけ。柔道を通して人間として成長できたので、私にとっては“教育柔道”だったと思う。柔道においての夢、目標は達成されました」

松本を語るのに欠かせない妖精話。

 帝京大時代、練習場でクーラーボックスから出てくる麦茶の妖精を見たという。しばらく見ていたら飛び去って行ったというのだ。ロンドン五輪時に広く報じられ、野獣と相並んで彼女のキャラクターを決定づけたエピソードである。

 引退した松本に改めて聞いてみた。

 野獣をやめると妖精は見えなくなるの?

「妖精はそんなに見られるものじゃないんです! たまたま通っていったのを見たので、あれ以来1回も見てません。本当なんです。たまたま通っていったので」

 何度も見ているわけじゃないと否定はした。でも、妖精を見たこと自体は特に否定しなかった。

 柔道をやめ、野獣もやめた。それでも松本薫は今も松本薫らしく、アイスクリームを作っている。

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