オリンピックへの道BACK NUMBER
アジアで金、女子柔道・角田夏実は
ケーキ屋さんになりたかった。
posted2018/09/02 09:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
価値ある勝利を手にした。
アジア大会柔道52kg級の角田夏実が手にした金メダルは、その表現が大げさではないくらいに意味があった。
「勝ててほっとしています」
初日から男女ともに敗れ、そこまで金メダルなしだったこともあるだろう。
だがそれ以上に、先々を見据えて負けられないというプレッシャーもあったはずだ。52kg級は、2年後の東京五輪代表争いの激戦区だからだ。
その候補の1人である角田は、異色の柔道家と言ってもよい。
まずは柔道のスタイルだ。関節技と寝技を得意とし、巴投げを武器とする。立ち技での一本勝ちを志向する選手が多い日本勢とは色合いが異なる。
今回の決勝戦が象徴的だ。
試合が始まって31秒で、得意の巴投げで技ありをとる。2分18秒に今度は関節技を披露、腕ひしぎ十字固めで一本勝ちをおさめた。持ち味を存分に発揮しての勝利は、角田の柔道を見事に表していた。
実業団で柔道をする気はなかった。
スタイルばかりではない。その経歴も他の選手とは一線を画している。
千葉県立八千代高校2年生のときに全国高校総体で3位になったことはあるが、他に目立った結果は残していない。そのため、高校卒業後は柔道を続ける意志もあまりなく、「ケーキ屋さんになろう」と考えていたこともあった。
大学に進んで柔道を続けることにしたが、選んだのは東京学芸大学。柔道の名門とは言えない。
角田自身、以前の取材でこう語っていた。
「(大学を卒業したあと)実業団で柔道をやるなんて考えることはできませんでした」
高校卒業後も柔道を続けることは決めたが、先々も柔道で生きる決意をしたわけではなかった。柔道を楽しめれば、そんなつもりだった。