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優勝を逃して泣いた日…松山英樹が3年半前に中嶋常幸に語っていた「メジャーへの夢」〈悲願のマスターズ制覇〉
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/04/13 11:02
松山英樹×中嶋常幸によるスペシャル対談が実現した
中嶋 自分で自分を許せないという気持ちは、すごくわかる。自分では自分を殴れないから実際には殴らないけど、本当に殴りたくなるというか、頭の中が煮えくり返るような……。プロだって気持ちの切り替えができない時があって、最終日バックナインに入ってのイージーミスは致命的だよね。それで終わるわけにはいかないから、選手は一生懸命立て直そうとする。だけどワンストローク差でしのぎを削っている中でのミスっていうのはこたえるんだよ。だからあの日、英樹が1番と3番でバーディーをとっていればもっとリードしてバックナインに入れた……と思ったんだけどね。結果的に5位(タイ)で最終日を終えた後の涙っていうのは、自分のミスで負けたから、という部分もあったのかな。
松山 そうですね。自分が思ったようなショットを打って、ボギーを打っていたのなら仕方ないや、また練習しようって切り替えられたと思うんですけど、11番から13番(の3連続ボギー)は何てことのない自分のミスなんで。不甲斐ないと言うか、何やってんだ! という悔しさでしたね。
中嶋が松山に伝えたかった「一・五流だと思え」の意味
中嶋 あの英樹の姿をテレビで見ていて、僕も泣いたんだよ。1986年の全英オープン、ターンベリーで(グレッグ・)ノーマンと1打差で最終日最終組で回ったけど、結果は8位タイ。記者に囲まれて泣いた。あれを思い出した。あのときも自分の不甲斐なさで、自分のミスで負けたという……。それが違う要因だったらもっと練習すればいいと思えるけど。あの時は僕も英樹と同じ心境だったかもしれない。もう泣きたくないね。もうたくさんだよな。
松山 そうですね……。
中嶋 こういう経験は、言葉で表現できるものではないんだけど、またそういう状況になった時に生きてくるものだと思うし、アメリカでちょっと勝つと驕りが出てくる人もいるけど、英樹はそうじゃない。'16年、フェニックスオープンで優勝した時に、英樹のトレーナー、飯田光輝にこういうメールを送ったんだよ。「俺はまだ松山は一・五流だと思っている。一流だと思ったら成長は止まるから。彼にもそう伝えて欲しい」と。そうしたら飯田から「全然、彼はそう思ってないです。一・五流どころか二流だと思っています」という感じのメールが返ってきた。それでホッとした。
松山 どこが一流か、一流じゃないかは周りの人が決める部分もあるので、わからないんですけど、僕の中では自分の評価があるので。
中嶋 それを聞いて嬉しかったね。やっぱりちょっと勇気が要ったんだよ。俺、アメリカで勝っていないのに、勝っている選手に「一・五流だと思え」って言うのはさ(笑)。でも、どうしても伝えたくて。
中嶋との最初の出会い「すっげーな、この人」
――お2人が交流するきっかけは、中嶋さんの門下生だった飯田光輝さんが、現在は松山プロのトレーナーとしてツアーに帯同していることも大きいですよね。
松山 そうなんですけど……じつは僕、8歳の時に一度、中嶋さんに会ったことがあるんです。大阪のゴルフ場で、ダンロップのコンペに父親が参加したんです。そこで、たまたま練習場の空いている打席が中嶋さんの前しかなくて。父親がそこで打ち終わっても、中嶋さんはまだ打ってて。最後に50ヤードくらいを3発打ったんです。それが全部、(両手を肩幅くらいに広げて)これくらいの幅のところに3球ともいって、僕は「すっげーな、この人」と思って見ていました。すごく印象に残っていますね。