Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
黒田博樹、新井貴浩、田中広輔、菊池涼介…カープ“伝説のスカウト”「チームの柱の見極め方」とは
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2020/10/15 17:01
選手としてもスカウトとしてもカープ一筋の苑田聡彦氏
野村祐輔は「全部持っとったですよ」
目の前のテーブルの上に、カープの勝利を伝える新聞がある。
昨夜もまた相手チームを一蹴したメンバーの名前に、苑田が目を落とす。スカウトとして、練習や試合を何度も見、決断をしてカープに導いた名前が何人も並ぶ。
「田中(広輔)は他所が外れ1位で行くって情報が入ってたんで、まさか3位で獲れるとは思わんかった。菊池(涼介)もそうやったですね。スピードも勝負根性もあって、唯一、ショートを守っているときに三遊間からの送球がシュート回転するのだけが心配やったけど、セカンドで使ってもらって長所の方が生きた。鈴木誠也もようなったでしょう。打ち損じた時の顔なんて、すごいですよ。プロの顔になってきたな」
問わず語りが続く。
「野村(祐輔)の年は菅野(智之=現・巨人)がおったけど、ウチは野村に決めとったですから。ボールのキレ、球種の多さ、コントロール、守備、牽制……それに気性の強さ。全部持っとったですよ」
黒田博樹の性格の強さと大物感
菅野は巨人に行ったから、あれだけ活躍できているという。伯父の原辰徳監督がいて本人も熱望していた巨人。広島に「顔」が向いていない選手を無理に獲ることはないという。
「黒田(博樹)のことはよう訊かれます。自分のベストボールを打たれると、次の打席でまた同じボールで勝負にいってやっつけてしまう性格の強さ。練習の時もいつも先頭。人の後ろをついていくようでは、プロは無理です。投手なのにバッティング練習なんかよく見てましたね、オレならあそこを攻めるなぁ……って顔してね。大物感がありましたよ、まさか200勝までするとは思わんかったけど」
両親のことも印象的だったという。
「お父さんは元南海の選手。いつもきちっとした服装で背中がまっすぐ伸びていて。帽子をかぶった姿がまたかっこよくてね」
お母さんは教員をしていたという。
「入団発表の時、『授業があったものですから申しわけありません』と時間ギリギリに広島に着いて。終わると普通は会食して、翌日は宮島観光をして帰ってもらうんですけど、黒田のお母さんだけは『生徒たちが待ってますから……』と、入団発表が終わるとすぐに大阪に戻って行かれました」