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ポドルスキがヴィッセルで持つ野心。
「イニエスタも同じような考えを」
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph byAsami Enomoto
posted2019/02/11 11:30
神戸での野心を語ってくれたルーカス・ポドルスキ。来日3年目はイニエスタ、ビジャとどんな化学反応を起こすか。
恩返しは絶対にしていく。
ここ神戸も、そんな掛け替えのない大切な場所になっていくのだろう。
「今、僕が受けている恩を返していくつもりだ。恩返しは絶対にしていきたい」
予定の取材時間をオーバーしても、真摯な受け答えは変わらない。せっかくなので質問を続ける。聞きたい話があった。ポドルスキが進めている慈善活動についてだ。
「児童施設をポーランドと(下部組織出身でプロデビューしたクラブがある)ケルンに作り、親のいない子供たちに食事を提供したり、勉強を手伝ったり、そんな活動さ」
振り返れば、多くの人に助けてもらったからこそ、移民の子にも道が開けた。恵まれない子供たちの力になるのは当たり前。財団を設け、慈善活動に力を入れるポドルスキには、そんな思いがあるようだ。次の話は、この人物の懐の深さを物語っている。
「財団で取り組んできたどのプロジェクトも印象的で、記憶に残っている。そこからひとつだけ選べと言われても、選ぼうとするだけでアンフェアだ。全てのプロジェクトが、本当に思い出深いものだから」
特注品のキャプテンマーク。
インタビューを終え、写真撮影へ。ユニホーム姿で、キャプテンマークを巻いてもらう。やがて室内にシャッター音が鳴り響く。フォトグラファーのリクエストに応えながら、ポーズを変えていく。
その様子をこちらは横から眺めているので、表情までは分からない。ふと記憶が蘇る。力強い表情を出すには、握りこぶしに力を入れるといい。何かで読み、役立つ日が来るかどうかという記憶だった。見ると、ポドルスキは両手のこぶしをぎゅっと握りしめていた。
2年目の今季から、キャプテンを引き受けた。
「特別な理由はない。ただ、自分の経験を活かす意味ではチャンスじゃないかと」
そんな動機の存在を明かしてくれたポドルスキが左腕に巻いているキャプテンマークは、実はオーダーメイドの特注品なのだと神戸の広報担当が教えてくれた。
意識してか無意識なのか、こぶしをきつく握りしめ、フォトグラファーとも誠実に向かい合う男。主将指名をやはり意気に感じ、その思いを特製の腕章に込めているのではないか――。横顔に、日本での挑戦への覚悟が滲み出ている気がした。
(Number960号『ルーカス・ポドルスキ「恩返しがしたいんだ」』より)