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小笠原満男はいつも正直だった。
悔しさを胸に戦い続けた男の引退。
posted2019/01/08 11:30
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
Getty Images
「今もスッキリしていないですよ」
12月28日、引退会見後に行われた囲み取材。「スッキリしたのはいつだったか?」と訊いたとき、小笠原満男はすかさずそう返してから、「クラブW杯の3位決定戦後にみんなに言ったら、結構スッキリしたかな。それまではモヤモヤしたのがあったけど」と続けた。
そんなやり取りに、彼を取材した21年間を想う。決して取材しやすい選手ではなかったが、小笠原はいつも正直だった。だから、彼と言葉をかわすのは嫌いじゃなかった。
負けたあとは悔しさを隠しきれない。だから、敗戦の弁を訊くことは困難だった。声をかけても無言でスタスタと歩いていく。彼の前にポジションを取り、その行方を妨げようとしても、無駄だった。だからこそ彼の歩みを止める質問、最初の一言が重要だった。
とはいえ、一度質問がうまくいったからといって、それが何度も通用する相手でもない。たとえ勝っても「2点、3点と追加点を取らなくちゃいけない」と言うのだから、取材陣が求めるコメント、たとえば喜びの声を得るのは簡単ではなかった。
職人のような人間臭さ。
天邪鬼ともちょっと違う(その一面もあるかもしれないが)。勝つための仕事ができなかったときは、何を言っても言い訳になってしまうと考えている。だから、そういうときは話したくはない。
逆に手放しに称賛されても自分が納得できていなければ、無邪気に受け入れることはできない。そんな小笠原に対して、「プロとしてどうなのか?」という声もあったのは事実だ。確かにそうかもしれない。
それでも、私は昔かたぎの職人のような彼の人間臭さが好きだった。サッカー選手として誠心誠意ピッチ上での仕事と向き合う。だから、仲間たちからの信頼は厚い。対戦相手からすれば、手強く、悪役のような存在になったのも、自分の仲間、クラブへの忠誠心と勝利への貪欲さゆえ。そのことを改めて痛感する、そんな引退会見だった。