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怪我で棄権の勧めを断った宇野昌磨。
「僕の生き方です」と言い放ち、優勝。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2018/12/27 16:30

怪我で棄権の勧めを断った宇野昌磨。「僕の生き方です」と言い放ち、優勝。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

フリーの最後、思わず出たガッツポーズ。全日本フィギュアは、自分を信じ切れてなかった己との戦いでもあった。

急遽病院でMRI検査を受け……。

 ジャンプで2つうまくいかなかったが、スピン、ステップはすべてレベル4を獲得。GOEの加点も得て187.04と、他を圧する得点を得る。総合得点でも289.10と、大差で3連覇を飾った。

 試合後、宇野は口を開いた。

「(足を傷めたのはショートの)6分間ではありません。ショート当日の公式練習の前のウォームアップで足を強くひねりました。練習の15分くらい前だったので最初は気にならなかったけれど、練習が終わったらすごく痛くて……」

 そんなギリギリの状態で、本番に臨んでいたのだ。

「ショートができたのは驚きでした」

 と、あっさりと本人は振り返るが……終わったあとは、歩くのも困難な状態に陥った。病院でMRIを撮るなど診察を受けると、「強く捻挫している」と医者から言われた。

「捻挫と聞いたので、無理しても1週間、長引いても選手生命にかかわることはないかな、と出ることにしました」

「どうしてそこまで出たいの?」

 回復に努めて迎えたフリー当日も、本来の状態にはほど遠かった。

「公式練習でジャンプを跳ぶ気満々だったのですが、思ったより痛くて何もできなかったのでどうしようかなと思っていました。でも試合では、なんとかいつもの演技ができたかなという思いでした」

 それがガッツポーズにつながったと振り返る。気迫で乗り切った、いや乗り切ったにとどまらず、渾身の、状況を考えれば会心の演技と言ってよかった。

 実は、周囲は棄権を勧めていたという。その1人、樋口コーチは勧めに応じない宇野に問いかけた、とあるエピソードを明かしてくれた。

「どうしてそこまで出たいの?」

 宇野の返事はこうだった。

「僕の生き方です」

【次ページ】 「地上を歩けるなら出ようと思った」

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