オリンピックへの道BACK NUMBER
怪我で棄権の勧めを断った宇野昌磨。
「僕の生き方です」と言い放ち、優勝。
posted2018/12/27 16:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
ショートプログラムが終わるやいなや激しく右腕を振り下ろし、フリーではガッツポーズで感情を表した。
宇野昌磨にとっての2018年の全日本フィギュアスケート選手権は、思わぬアクシデントに見舞われ、その中で勝利をつかみ、そしてその逆境から糧を得る大会となった。
異変が起こったのは、ショートプログラムの6分間練習でのことだった。
アクセルジャンプが抜けて着氷後、両膝に手を数秒間、置いた。その後はジャンプを跳ばず、リンクを回り続けた。
いつもと比べれば、あまりにも異なる姿だった。
練習時間が終わると、1番滑走の宇野はリンクサイドの樋口美穂子、山田満知子コーチのもとに寄り、へりを激しく叩いた。
怪我のことは一切秘密にしていた宇野。
だが本番で曲が始まると、今シーズンでも最上とも言えるほどの演技を見せた。
ジャンプをすべて完璧に跳んだのはむろんのこと、『天国への階段』の曲調も完璧に捉えて世界に引き込む。終わったあとの表情は、いつにも増して精悍さを感じさせる。
得点は国際スケート連盟非公認ながら、今季4大会ぶりに100点を超えた。
「やってやったぞ、という思いがありました」
本人は、終了直後の心境をこう表した。
ただ、この時点では、足の状態を記者に問われても、一切答えることはなかった。
全日本選手権はフリーとの間に1日空く。空き日、公式練習に姿を見せなかった宇野は、そのままフリーに臨んだ。