「これで感謝の気持ちを伝えられる」

松岡「その試合は、とにかく守ったんですか。それとも必死で返して、こっちからも攻めて？」

吉田「守りもしましたけど、中盤からは攻めました。相手がけっこう動くタイプなんです。こっちがロビングを打っても返してくるので。大変でした」

松岡「新しい自分に気づいた瞬間でもあったんじゃないですか」

吉田「そうですね、自分はこんなにやれるんだ、とその時は思いました。

　そうそう、ひどいのは、こんなに自分が頑張っているのに、日本チームの仲間はみんなご飯を食べに行って見てなかったんです。

　選手1人がベンチに入ってくれていただけ。相手が世界5位ですから、みんな負けると思っていたみたい（笑）。ベンチに入ってくれた選手だけは『吉田さん、良かったね』って一緒に涙してくれました」

松岡「自然にこぼれた涙ですね」

吉田「勝った嬉しさもそうですけど、これで感謝の気持ちを伝えられるなって。コーチもそうですし、亡くなった親父にも。その前のロンドンにチャレンジしているときにガンで他界したんですけど、ようやくパラリンピックに行くことができる。きっと見守ってくれていたのかなって。素直に、ありがとう、と」

　2016年夏、念願のリオ・パラリンピック出場。そこでは、どんな景色を見ることができたのだろうか。

松岡「実際にリオに出場してみて、いかがでしたか。想像以上のものでしたか」

吉田「そうですね……。実は、リオが決まったあとは『ここからがスタートだ』と自分に言い聞かせていたんですけど、具体的にリオに向けてどんな準備をすれば良いかわからなかったんです。何をやって次の段階に進めばいいのか……。

　世界5位に勝ったんだから、今のままの卓球でいいのかどうか、自分はもちろん協会もコーチ陣も誰も、ビジョンを見つけられていなかった。だからリオは、ちょっと後悔してますね」

松岡「パラリンピックに出たいという一心でやってきて、出場が決まった。でも、その先の目標へと気持ちが移らなかった。もともと金を獲ろうと思ってやってきたわけではないですもんね」

吉田「やっぱり常連国である中国やフランス、ドイツはそこからの準備がしっかりしているんです。今まで何度も経験してきているから。

　一方で日本は私のクラスの経験者がゼロでした。僕以前に出場者がいなかったんです。だから何をやらせれば良いのか、何から手をつければ良いのか、すべてがある意味、選手任せになっていた。自分自身ではしっかり準備したつもりでいたけど、あくまで『つもり』で終わっていた。だから結果なんて出るわけがないんです」

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