炎の一筆入魂BACK NUMBER
丸佳浩とカープ、必然の別れ。
FAは忠誠心の踏み絵ではない。
posted2018/12/05 11:30
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
広島の街で久しぶりに巻き起こったFA狂騒曲は、丸佳浩が巨人移籍を表明して静けさを取り戻した。それまでが騒がしかっただけに、寂しさに打ちひしがれているように、広島の街は静まり返っていた。
地方の市民球団であるカープには「おらが町のチーム」の色を強く感じる。地域性が濃いだけにファンの熱気は熱く、温かい。
ただ、一方でふがいない姿には叱咤激励が飛ぶ。それだけに成長の足跡を見てきた選手の移籍には喪失感を感じてしまうのだろう。
ただ、移籍を決断した丸にも、11年過ごした広島への愛着はある。
「僕だって、残りたい……」
FA権を行使した後も、そうつぶやいた。それは偽りない本音だったように思う。
丸が広島に求めていたもの。
試合に向けたルーティンは貪欲なまでに貫く。「決して面白いものでもない」といいながら、すべて野球のために注いできた。そんなタイプの丸にとっては環境の変化は、また新たに対応しなければいけないことが増えることになる。慣れた環境でプレーできるメリットは大きい。
ただ、選手としてよりいい条件を求めるのは当然。プロ野球選手の価値は金額で示される側面もある。特に2年連続MVPを受賞するほどの高みを見た丸ならば「他球団の評価を聞いてみたかった」のは自然な流れといえるだろう。すでに多くのものを得たベテランではなく、これから多くを得る中堅選手ならなおさら。
FA権を行使し、獲得に手を挙げたロッテも、巨人も出した条件は、広島が提示した条件を大きく上回っていた。特に巨人は広島の条件との開きは明らか。それでもあれだけの期間、悩み、苦しんだ。最後まで残留の可能性を残していた。
丸が広島に求めていたものと球団の姿勢には、報じられているような金額ほどの開きはなかった。今回のFAで丸が重要視した点は金額だけではない。わずかな差。ただ、それが埋められない溝になっていた。
その点も含めて、巨人が上回り、広島は歩み寄ることができなかった。