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出口クリスタは東京五輪に出たい。
カナダ柔道に出会い新境地を開拓。
text by
朴鐘泰Park Jong Tae
photograph byWataru Sato
posted2018/11/23 08:00
カナダ代表としてオリンピック出場を目指す出口クリスタ、パワー勝負ならば誰にも負けない。
周囲の意見は「カナダのほうがいい」。
高校の時、カナダ側からスカウトされても、大して気に留めなかった。「自分には選択肢がある」という程度の認識で、それはずっと心の奥底にしまっていた。
しかし、大学で不振に陥る最中、ちょうど講道館杯の半年ほど前、女子カナダ代表コーチのサーシャ・メーメドビッチが訪れ、父と母を含めた四者面談を行なうと、出口の心は大きく揺れ動く。
カナダ、アリかも、と。
このまま日本か、それとも、父のルーツであるカナダか。悩み続ける。答えは出ない。
誰かに相談したい。でも、「日本orカナダ」の選択なんて、傍から見たら重すぎる。まわりに心配かけてもしょうがない。だから、「どっちがいいと思います~?」と、努めて明るく聞いてみることにした。ランチ、カレーにする? パスタにする? くらいのノリである。
意外な答えが返ってきた。
「20人かな、いや、30人くらい聞いたのかな。これまで自分を育ててくれた先生だったり、ずっと一緒に柔道やってきた先輩や同級生に。9割以上が『絶対カナダのほうがいいよ』って。勝率というか、オリンピックに出ることを目標とした場合、カナダのほうがいい。みんなそう言ってくれました」
ちなみに両親は「どっちでもいい。自分の好きなようにやりなさい。そこに私たちは口出ししない」と言ったという。
もう悩むのもめんどくさい。
それでも悩み、迷い続けた。今のままでいることのメリット・デメリット、カナダ代表になることのメリット・デメリット……何度も何度もシミュレーションした。天秤は時にせわしなく、時に片方へと大きく揺れながら、止まることは決してない。
しかしある日、天秤が止まった。
悩めるだけ悩んだ。もうこれ以上、悩むのもめんどくさい――。
2回戦敗退した講道館杯から年が明けて2017年1月。出口は全日本柔道連盟に、強化指定選手の辞退届を提出。カナダ代表として東京五輪出場を目指すことを選んだ。
出口は、カナダパスポート取得など諸々の事務手続きを済ませ、2017年の夏、はじめてカナダ代表合宿に参加した。