サムライブルーの原材料BACK NUMBER
田中隼磨が完遂した松本山雅の優勝。
偉大な先輩たちの言葉を胸に刻んで。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/19 13:00
田中隼磨は松本出身で、中学までは地元のサッカーチームでプレーしていた。その愛は深い。
首位争いの試合で見せた一発回答。
そしてついに、約4カ月ぶりに先発のチャンスが回ってくる。
9月1日、アウェーでの水戸ホーリーホック戦。チームは2連敗中で首位から陥落し、勝負どころの一戦だった。
“一発回答”とは、まさにこのこと。
0-1で迎えた後半14分、左サイドから山なりのクロスが流れてきたところに待ち構えていた。ニア上の、ここしかないという狭いコースを打ち抜いての同点ゴール。シュート練習の成果を、この大事な場面で見せつけた。
「絶対決めてやるから、こぼれてこいと思いました。これまでの自分なら、その位置まで入っていかなかったかもしれない。試合に出られなかったから、そこまでいこうと思った」
以降、全試合にフル出場を果たすことになる。
田中の存在が、首位を争うチームのエンジンとなっていく。失速を食い止め、加速を促すキーパーソンであった。
思いの強いヤツにボールが転がった。
優勝に王手を掛けたのも、彼のゴールである。
前節のアウェー、栃木SC戦(11月11日)。スコアが動かないなか、後半27分に絶好機が訪れた。左からのクロスに対し、中に入ってきた田中が左足で合わせて決勝点を挙げた。両拳を振るった魂の叫びに、チームメイトが次々に覆いかぶさった。
絶対に決めてやる、ここにこい!
思いの強いヤツに、ボールは転がっていった。この試合、もし引き分けていたら3位に回ることになっていた。田中が、山雅を救った。
優勝が懸かったこの最終戦でも後半、水戸戦に似たシチュエーションで決定機を迎えたが、ポストに弾かれてしまった。
「天国のマツさんは“だせえな、ハユマ”と言っていると思います。調子に乗るんじゃないぞっていうことでしょうね。まだまだですよ、俺は」
いつも心にいる「山雅の3」の大先輩、松田直樹があきれている顔を浮かべたのか、口をへの字に曲げた。優勝を決めたというのに、あそこで得点を奪えなかった自分に対するむかつきが消えなかった。