サムライブルーの原材料BACK NUMBER
田中隼磨が完遂した松本山雅の優勝。
偉大な先輩たちの言葉を胸に刻んで。
posted2018/11/19 13:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE
♪行け行け~まつもとぉ~、勝利を信じて~、蹴散らっせ、とくしまぁ~、俺らとともに~♪
90分に刻一刻と近づきながらもスコアはゼロゼロで動かない。別カードでは大分トリニータがリードしている。このままいけば松本山雅はJ1昇格を果たせても、初の優勝には届かないという状況だった。
スタジアムの先に見える、雲がかかる山々。こだまするようなチャントの音量に、それ以上のクレッシェンドが入った。徳島ヴォルティスがGKから左サイドにボールが出ると、背番号3が猛然ダッシュと敢然スライディングでカットしたのだ。
タッチラインを割ってマイボールに出来なかったことがよほど悔しかったのか、田中隼磨はピッチをバンと叩いて起き上がった。一層の大拍手とチャントの大音量を呼び込み、彼らの背中をもうひと押しさせた。
「あのスライディングですか?」
大分が追いつかれたため、結局スコアレスドローでJ2を制した。苦しい試合も、泥臭い優勝も、そして熱がこもるスタジアムの、サポーターの後押しも松本山雅らしかった。優勝が決まると田中は真っ先にゴール裏に向かい、感謝するようにサポーターへの拍手で返した。
「あのスライディングですか? 自分が率先して姿勢を見せることでサポーターの人も熱が入るし、最後に点を取るんだっていう気持ちを何より表したかったんですよ。点を取れば(優勝が)決まると思っていたので」
ぎっしり埋まったサンプロアルウィンスタジアム。2万人に近い来場者は、史上2番目に多かったとか。サポーターを乗せて、サポーターから乗せられて。36歳、チーム最年長の状況に応じたインサイドワークがチームを引き締め、優勝というミッションを完遂させた。