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川口能活がいま引退を選んだ理由。
燃え尽きてはいない、次の情熱へ。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/11/15 12:15
鬼気迫る表情と、やわらかな表情。どちらの川口能活も驚くほど魅力的なのだ。
「サッカーを楽しむ」ようになってきた。
現役引退後の川口を支えていくのは、日本代表としてのタフな経験だけではない。キャリアを重ねていくなかでの精神的な変化も、指導者としての道標となるはずだ。
“炎の守護神”との形容詞が当たり前のように使われる川口だが、このフレーズはずいぶん前から似合わなくなっている。転機となったのはデンマークのFCノアシェランへの移籍だ。
'03年9月から'04年末まで在籍した北欧のクラブで、彼は「サッカーを楽しむ」ことの大切さを再確認する。求道者のごときメンタリティに少しずつ余白が生まれ、温かみのあるオーラをまとうようになっていくのだ。
'04年のアジアカップあたりからは日本代表のイジられキャラとなり、「人の話をあまり聞いていない」ゆえの的を外したリアクションが、クラブでも若いチームメイトとの距離を縮めるきっかけとなっていった。
現役中から指導者ライセンスの講習を受けるJリーガーは多い。川口もB級コーチとゴールキーパーC級コーチのライセンスを、すでに取得している。
現役を続けられる余力を残しての引退は、現役に負けないコンディションを維持しながら指導者になる、ということでもある。経験や技術を言葉で伝えるだけでなく、自らモデルとなるプレーを示し、必要なら何度でも再現するに違いない。
日本人GKの可能性を開拓してきた川口は、引退後も新たな地平を切り開いていくのではないか。穏やかな印象を与えるようになっても、サッカーへの情熱は彼の胸で燃え盛っている。