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パワハラ問題直後の世界体操で、
村上茉愛と団体女子に見た希望。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2018/11/12 08:00
女子個人総合で日本女子史上初の銀メダルに輝いた村上茉愛。演技後は応援に来た母のもとへと駆け寄った。
再び一線級に戻った寺本。
しかも今回、団体決勝の跳馬でミスをした寺本は、その2日後の個人総合決勝の跳馬では団体のときと同じ「チュソビチナ」で全体のトップである14.633点を出した。同じく団体決勝で手を外してしまった段違い平行棒でも、個人総合決勝では最後までしっかり通し、団体より0.9点高い点を出している。
田中監督は「勝負に“たられば”はない。結果を実力として受け止めている」と言うが、選手たちの手応えは以前とは確実に違ってきている。村上は「アメリカはケタ違いですが、メダルに届く位置には全然いるのかなと思う」と、距離が縮まっていると感じている。
寺本は個人総合の後、「私が団体できょうと同じ点を出していれば3位だった」と目線を落としたが、1人で背負い込む必要はない。「リオ五輪で燃え尽きた」と一線を退くことも示唆した日々から、明確に東京五輪を目指すところまでメンタルを持ち上げ、今回は難しい状況で若いメンバーの入ったチームを束ねた。それはベテランの力だった。
東京五輪の団体出場枠は、来年の世界選手権(10月、ドイツ・シュツットガルト)で、今回出場権を獲得した米国、ロシア、中国を除いて9位以内に入ることで得られる。
“56点の選手”をもう1人。
東京でのメダルへの希望の光を示した日本女子に必要なのは、一刻も早く戦える体制を整え、メダルを狙うための戦略を練っていくことだ。田中監督は「強化に関しては時間がない。今回の情報を現場のコーチに返して、強化の方向性を示し、すぐにスタートを切っていかなければいけない」と訴える。
具体策としては「今は村上選手1人しかいない、“56点の選手”をもう1人つくっていくこと。畠田選手と梶田選手は今、もう少しで54点なので早く55点になってもらうようにがんばってもらいたい。あとは、ゆかや跳馬のスペシャリストを育てていくことが必要だと思う」
今後は、リオデジャネイロ五輪にも出場しながらその後ケガに悩まされることも多かった杉原、宮川、内山由綺(20=スマイル)や、アジア大会代表の中路紫帆(18=戸田市スポーツセンター)、塙颯香(はなわ・そよか/16=フジスポーツクラブ)といった新鋭たちの成長も期待できる。リオ五輪で見え始めた団体メダルへの夢は、ドーハ世界選手権を終えて現実の目標となってきている。