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340円のコンビニ弁当を分け合って。
流経大ラグビー韓国人コーチの大志。 

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多羅正崇

多羅正崇Masataka Tara

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photograph byMasataka Tara

posted2018/10/15 10:30

340円のコンビニ弁当を分け合って。流経大ラグビー韓国人コーチの大志。<Number Web> photograph by Masataka Tara

左が池英基さん、右が内山達二監督。国を越えた師弟関係が彼らにある。

340円弁当を夫婦で分け合って。

 30歳手前にして、明日の見えない日々。その悔しさは、コンビニ弁当を食べたときに溢れ出た。

 2010年、流経大がある茨城・龍ケ崎に滞在していた池さんは、夜中に夫人とコンビニへ行った。

「お金がなくて、ひとつのコンビニ弁当を買って、二人で食べました。340円の弁当。チキンとかいろいろ入っていました」

 見知らぬマンションの裏手に座り、2人で分け合った。熱烈にアプローチした妻に、みじめな思いをさせている29歳の自分。味は覚えていないが、悔し涙に襲われたことは今も忘れられない。

「ひとつの弁当を2人で分けて。嫁にも申し訳なくて。嫁に見せないように泣きました。泣きながら『おれ絶対成功する』と」

 そんなときに流経大コーチとしての椅子を用意してくれたのが、内山監督だった。

試練は練習後のコーチコメント。

 池さんのコーチキャリアが2011年、龍ケ崎市の流経大グラウンドで始まった。しかし1年目は大きな試練からのスタート。グラウンドが東日本大震災で被害を受けたのだ。

 人工芝は陥没し、水が噴き出した。部員たちは一時帰郷。ちょうど妊娠中だった夫人も韓国へ一時避難。日本語の話せない池さんがひとり流経大に残り、片付けなどに従事した。

 チームの練習がようやくスタートしたのは、夏季目前の6月18日。しかし池さんにとっては、その練習も試練だった。

 内山監督が練習後、毎回選手の前でコーチコメントを言わせたのだ。

「日本語が喋れないですよね。選手の前に立った時に、頭が真っ白になります。毎回練習に出ることが怖くて」

 日本語を間違えて笑いが起こったこともある。それでも毎日憶えたばかりの言葉を絞り出した。分からなかった日本語をメモして、毎晩夫人に尋ねる日々が続いた。

 やがて訪れた変化を、内山監督は昨日のことのように憶えている。

「夏合宿を越えたあとに、学生が一切笑わなくなった。びっくりしたね。言葉にどんな体重、どんな熱を乗せて話すかということが、どれほど大事か。それを彼から学びました」

【次ページ】 その人柄に選手の態度も変化。

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