濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
再戦は慎重に……。那須川vs.堀口、
“世紀の他流試合”の緊張感と余波。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2018/10/10 10:30
時代を超えて語り継がれる名勝負となった那須川vs.堀口。果たしてリマッチはあるのか……。
勝負を決めた大技、胴回し回転蹴り!
堀口とは対照的にこわばったような表情だった那須川も、試合後半には緊張感を振り切ったのか攻撃のテンポを上げていった。
勝敗を決めたのは3ラウンドにヒットさせた胴回し回転蹴りだ。
ここでこの大技が出るか、と誰もが驚いたはずである。中村優作戦では胴回しでダウンを奪っているが、その時の小さな縦回転ではなく、今回は大きく横に振ってくる蹴り。その使い分けがまた非凡だ。
動きが止まった堀口は反則のタックルで那須川の追撃を潰さざるを得ない。それでも那須川がラッシュを続け、パンチとミドルキックでボディも効かせたように見えた。
この攻撃がものを言って、試合は那須川の判定勝ちとなった。それは終盤になって、ようやく少しの差がついたということでもある。試合後の那須川は、堀口を「獣のようだった」と語っている。堀口は中盤にあった金的へのローキックの影響を否定こそしなかったが「負けは負けなんで」。
一瞬、試合中止さえ願った那須川の緊張。
試合中、笑顔を見せたのは「駆け引きが分かって、凄く面白かった」からだそうだ。「フェイント入れたらこうくるな、とかが分かったんで」と堀口。那須川も、駆け引きの濃密さを語っている。そして堀口が唯一、読めなかったのが胴回しだったと言う。おそらく両者とも、実際の攻防以上に脳内で“手数”を出していたのではないか。観客の盛り上がりは、それを皮膚感覚で察知したからではないか。
KO決着ではなく、ダウンもなく、しかし恐ろしく充実した試合だった。見ているだけで疲れる試合だったとも言える。
那須川は台風による試合順変更の際「このまま試合がなくならないかな」と思ったそうだ。無敗の“神童”がそれくらいナーバスになっていたのだ。