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井上尚弥の衝撃KO、何が起きたか。
「あの60秒で凄く駆け引きをした」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/10/09 11:40
パンチ2発でパヤノをKOした井上尚弥。試合後の会見では傷ひとつない笑顔を見せた。
「歴史に残るKO」(大橋会長)
あまりの衝撃に興奮が収まらなかったのは、むしろ周囲だったかもしれない。大橋秀行会長は試合翌日、「久しぶりに二日酔いになってしまいました」と苦笑いしながら、次のように話した。
「マクドネルのときは力みすぎて、尚弥らしくなかったけど、今回は力を抜いた尚弥らしいワンツーだった。フェイントの掛け合い、ハイレベルな攻防の中から生まれたワンツー。歴史に残るKOシーンじゃないですか。30年たっても、50年たっても、流されると思いますね」
最大の賛辞を口にしたのは、WBSSのプロモーターとして来日した、カレ・ザワーランド氏だ。
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「彼のパンチは爆弾だ。(世界のトップスターである)ジョシュア、ワイルダー、ゴロフキン、カネロと比較しても、階級を超えて彼がナンバーワンだ。私はスタッツ好き。数えてみると2試合で182秒。これってすごくないですか?」
歯の浮くようなセリフがリップサービスにまったく聞こえない。それくらいこの日のモンスターは圧倒的だった。
より強く、という志のもとで。
いったい井上はなぜこのような、つまりは常軌を逸するようなパフォーマンスができるのだろうか。
真吾トレーナーは「より強く、という志」と語った。ミット打ちを担当する太田トレーナーが「最後まで口数が減らなかったし、冗談も言いあっていました」と言ったようにコンディションの良さもあったろう。
いずれもその通りなのだろうが、まるで漫画のような光景を前にすると、どれだけ言葉を尽くしても、実像に追いつくのは難しい。