ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥の衝撃KO、何が起きたか。
「あの60秒で凄く駆け引きをした」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/10/09 11:40
パンチ2発でパヤノをKOした井上尚弥。試合後の会見では傷ひとつない笑顔を見せた。
カウンターの右アッパーで変化が。
さらにパヤノが右を出した瞬間、井上は右アッパーをカウンターで合わせた。これはヒットしなかったが、井上と真吾トレーナーはパヤノのわずかな変化に気が付いた。
「あれで勢いが止まった」(井上)、「パヤノに警戒心が生まれた」(真吾トレーナー)。
井上がジワリと間合いを詰め、猫のような動作で左グローブをチョン、チョンとパヤノのグローブに当てていく。距離を測りながら、次なるパンチを打ち込む布石を打っていた。
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「あの60秒ですごく駆け引きをしていた。パヤノは半身がきつかったから距離があって、どう当てていこうか、考えていたんです。それがあのアッパーで少し勢いが止まった。あそこでいけるというのがありました。(ジャブで)外から、外から、と意識をさせて……」(井上)
「同じ距離でピリピリと探り合っていた。パヤノも狙っていましたよ。左ストレートか、右なのか、何を狙っていたかは分からなかったけど、尚弥のほうが反応が速かった」(真吾トレーナー)
「パーフェクトすぎたという感覚」
井上はこれまでに強烈な左フックで何度も相手をキャンバスに沈めている。外からくる左フックは対戦相手にとって脅威だ。その外を意識させ、一気に内へ。井上は鋭く踏み込み、内側から左を差し込むと、パヤノは何かを合わせようとしていたのか、左ガードがアゴから離れる。
井上がそのまま体を少しひねるようにして右ストレートをパヤノの顔面に打ち込む。刹那、パヤノの肉体はキャンバスに転がっていた。
ジャブで視界を遮り、死角を作った上での右ストレート。身体をひねらなくてはならなかったのは、それだけ深く内側に踏み込んだからだ。繰り返し練習していたワンツーだった。
「パーフェクトすぎたという感覚。狙って、計算して入ったパンチです。普段は何で倒したのか覚えてないこともあるけど、昨日は試合が終わった直後もはっきり覚えていました。狙い定めたパンチでしたね」
一瞬で戦闘能力を消滅させられたパヤノは立ち上がることができず、レフェリーに体を抱きかかえられた。横浜アリーナが大歓声に包まれる中、時間にして70秒のドラマは完結したのである。