ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥の衝撃KO、何が起きたか。
「あの60秒で凄く駆け引きをした」
posted2018/10/09 11:40
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
これはもう、事件である。
圧巻のパフォーマンスで世界を驚かせる井上尚弥(大橋)がまたしてもやってくれた。
7日、横浜アリーナで行われたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準々決勝、WBA世界同級タイトルマッチで、王者の井上尚弥(大橋)は元WBAスーパー王者の挑戦者、フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)にわずか初回1分10秒でKO勝ち。同王座の初防衛に成功するとともに、WBSS準決勝に駒を進めた。
こんな結末をまったく予想しなかったわけではない。さかのぼること5カ月前、井上はバンタム級進出初戦で、10年間無敗のWBA王者、ジェイミー・マクドネル(英)をわずか1分52秒で仕留めていたからだ。
とはいえ、今回は久々に対戦するサウスポーであり、ラフファイトもいとわないパヤノが相手である。アマで528戦のキャリアを持ち、プロでも世界チャンピオンを経験している。
何よりやりにくい曲者タイプだけに、苦戦とは言わぬまでも、フィニッシュまでにはそれなりに手こずるのではないか、と思われたのだが……。
本人は映像を「50回くらい見た」。
いったい何が起こったのか。映像を「50回くらい見た」という井上と、父の真吾トレーナーの言葉をもとに、試合を振り返ってみよう。
右構えの井上と左構えのパヤノ。前に出した井上の左グローブと、パヤノの右グローブが触れ合う形だ。パヤノは左足を大きく後ろに引いた半身の構え。左グローブをしっかりアゴにつけ、井上の右を抜かりなく警戒した。
先にパンチを出したのはパヤノだ。右ジャブを井上のボディに打ち込んだ。体を伸ばして打ち込む右ボディが、バックステップでかわす井上の腹にわずかに触れる。パヤノの踏み込みはなかなか鋭い。