ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
10度の防衛全てが日本開催の憂鬱。
内山高志に世界のスターとの戦いを。
posted2015/05/07 11:35
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
内山高志(ワタナベ)が6日、大田区総合体育館のリングで、WBAスーパーフェザー級タイトルの10度目の防衛を成功させた。10度の防衛回数は、具志堅用高が打ちたてた金字塔V13に次ぎ、バンタム級でマークした長谷川穂積に並ぶ国内歴代2位タイ記録だ。
数字だけではない。内容が圧巻だった。軽く上体を揺らしながら重厚なジャブを打ち込むだけで、会場に詰めかけたファンのテンションは上がった。初回、何の前触れもなく打ち込んだ右ストレートで、挑戦者のジョムトーン・チューワッタナ(タイ)は早くも右目を負傷。音が違う。迫力が違うのだ。フィニッシュは2回。再び内山の右が炸裂すると、肉体を操作する神経を破壊されたチャレンジャーはグニャリと体を揺らし、キャンバスに大の字になるとピクリとも動かなかった。
この1カ月間、ボクシングは世界戦ラッシュで、山中慎介(帝拳)、三浦隆司(帝拳)、井岡一翔(井岡)のほか、ノンタイトルでもミドル級の村田諒太(帝拳)らがリングに上がったが、内山のパフォーマンスは、彼らが色あせるほどのものだった。同じスーパーフェザー級のWBC王者で、対戦が期待される三浦はリングサイドで武者震いしていた。
「こんなに早く終わるとは思わなかった。今日のような強いボクシングを見ると、内山さんは避けて通れないと思う。自分も対戦したい気持ちが強くなってきた」
海外志向を強めている三浦の「避けて通れない」という言葉に、世界王者のプライドが表れていた。
試合前には「今回はかなり苦戦すると思った」が。
挑戦者のジョムトーンは決して悪い選手ではなかった。戦績は9戦全勝と少ないながら、これはムエタイを主戦場としているためで、そのムエタイでは数々のタイトルを保持する猛者だという。日本人ボクサーには3戦全勝。ムエタイも含めて海外で負けがなく、アウェイにめっぽう強い。
内山自身が「今回はかなり苦戦すると思った」と口にしたように、内山の辛勝、あるいはまさかの敗北を予想する声も試合前には聞いていた。その相手に圧巻の2回TKO勝ちである。内山は「やるな、という雰囲気は感じた」と挑戦者を評しながら、「最初に右が当たる距離だと感じた」と涼しい顔で言ってのけた。