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ドイツで臥薪嘗胆、21歳の伊藤達哉。
小柄なドリブラーが才能に目覚める時。
posted2018/10/09 07:00
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph by
TF-Images/Getty Images
“軽業師”、という肩書きがしっくりくる。
ハンブルガーSVに所属する21歳の伊藤達哉。先月、初めて日本代表に招集された新星は、2017年9月にレバークーゼン戦においてブンデスリーガ・デビューを果たしている。抜擢した当時の監督マルクス・ギズドルは、ヤン・フィーテ・アルプ、バシリエ・ヤニチッチと並んで伊藤を“クラブの未来”と称した。王者バイエルンのように圧倒的な資金力に頼れない古豪は、下部組織で研鑽を積んだ有能な若手たちに期待をかけたのである。
ギズドル監督に重宝され、徐々に出場機会を与えられた伊藤。163cmの体躯で敵のDFを軽やかに抜き去るたびに、本拠地フォルクスパルクシュタディオンの観衆を熱狂の渦に巻き込んだ。
しかし、21歳の日本人MFが着実に試合の出場数を増やす一方、チームは降格圏に低迷。ウインターブレイクが明けて最下位のケルンに敗れると、ギズドル監督は解任の憂き目にあう。
恩師を失った伊藤は、新任のベルント・ホラーバッハ氏の下では、ほとんど出場機会を得ることはできなかった。
だが、後任者も成績はさっぱり振るわず3月に解任。
そしてU-21を率いていたクリスティアン・ティッツ氏が昇格すると、伊藤に再びチャンスが巡ってくる。左サイドでレギュラーの座を掴み、史上初の降格を免れようと足掻く北の名門のために奮戦した。
ドイツで輝く小柄なドリブラー。
しかし……それがまるで運命だったかのようにハンブルガーSVの1部残留は叶わなかった。
だが、伊藤がインパクトを残したのは間違いない。降格が間近に迫る4月のヴォルフスブルク戦では、PK獲得を含む2アシストの活躍。小柄なドリブラーが巨躯のDFを手玉に取る様は、まるで旧約聖書の中のダビデとゴリアテのようであった。
今季は背番号が43から11に若返った。
依然としてクラブの期待も高い。
1シーズンでの1部復帰を目指し、試行錯誤を重ねながら、決して華やかとは言えない2部の舞台を転戦している。